01.のどに食べ物を詰まらせたカラス

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01.のどに食べ物を詰まらせたカラス

 街角に老賢人が立ち、道行く人々相手に演説をしていた。  しかし、道行く人々はこの老賢人を賢人とはみなしていなかった。頭のおかしな老人だと認識するのはまだ良い方で、おおかたの人々は道端に落ちてる石ころと同じように無視していた。  そんな老賢人の演説に耳を傾けている者といえば、演説場所のすぐそばで生活するホームレスくらい。ホームレスだって別に老賢人の演説を食い入るように聞いているわけではない。  自分が寝泊まりする場所のそばで、いつも頭のおかしな老人が演説しているのを鬱陶しく思っているだけだ。  それでも毎日、老賢人は道行く人々に訴える。道行く人々は誰も老賢人の声に耳を傾けていないにしても。来る日も来る日も、その街角でくり返された光景。  その日もまた老賢人は道行く人々に訴えていた。古びたダンボールのようなジャケットから伸びた、雨に濡れた新聞紙のようなしわだらけの手を振りながら、のどに食べ物を詰まらせたカラスのようなしわがれた声で。
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