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真実は闇の中。
夕梨花は今、目の前で起こっている悍ましい光景に唖然と立ち尽くすしか無かった。気品ある紳士だった桜崎誠一郎が、いきなり鬼の形相で山河の首に噛み付いたのだ。
声が出せない山河は必死に暴れるが桜崎に掴まれていて動けない。恐怖と激痛で意識が朦朧としてきたのか山河は次第に動きが鈍くなり、遂には動かなくなってしまった。それと同時にやっと桜崎が立ち上がると、自分の口から滴る血を手で触ると余す事なく飲み干した。
夕梨花は震えながらもう一人の異常者を見る。
桜崎の異常な行動をただ静観していた宮ノ内優斗だ。彼は倒れている山河を見る事なく立ち上がると、震える夕梨花に近づいて行く。
「相澤夕梨花。君もやり過ぎたね、愛華を傷つけた」
その憎たらしい程に整った顔を歪ませて嗤う宮ノ内は、夕梨花を更なる恐怖に陥れようとしていた。
「あ⋯何をしたの?⋯山河⋯死んだの!?」
動かない山河を見たあとに、何事もなかったようにソファーに座る桜崎を見た夕梨花は急いで逃げようとドアを必死に開けようと暴れるがビクともしない。
「おい、私はこいつと違って女に危害は加えない」
桜崎は宮ノ内をジト目で見ながら言うが、夕梨花の耳には届いていない。
「誰かぁーーー!!助けてーーー!!」
必死に叫ぶが誰も来る気配さえない。諦められない夕梨花が窓を割ろうとした時だった、徐にドアが開いたのだ。
(助かった!!)
入ってきた香坂を押し退けて、必死に職員室に逃げ込んだ夕梨花。
「助けて!!山河先生が殺された!!桜崎誠一郎と理事長が殺したの!!」
職員室にいた校長の弓沢と教頭の駒を始め、数人の教師は夕梨花の錯乱振りと叫んだ内容に唖然とする。
「君!何を言っているんだ!!」
「馬鹿な事を言ってないで、ちゃんと高島さんに謝ったのか!!」
「うるさい!!いいから警察を呼んでよ!!理事長室に行けば山河先生が⋯死んでるから!!私も殺される!!」
弓沢と駒の言う事を聞かずに喚き散らす夕梨花を見て眉を顰める教師達。
「何事!?」
保健室にいた愛華が、保険医の大宮と共に夕梨花の喚き散らす声に驚いてやって来た。
「あんた⋯!!あんたも化け物なの!?私を殺すつもり!?」
「はぁ!?化け物って⋯殺す!?意味分かんない!!」
愛華に食って掛かる夕梨花だが、その場にいた数人の教師が彼女を必死に取り押さえる。
「何をしているんですか?」
そこへやって来た宮ノ内と桜崎を見た夕梨花が狂ったように叫び出して暴れる。
「こいつらが殺したのよーー!!」
「いい加減にやめなさい!!すみません!今すぐ連れて行きます!」
急いで暴れる夕梨花をこの場から連れ出そうと教師達が引きずって行こうとした時、職員室に入ってきた人物を見た夕梨花は驚愕する事になる。
「どうしたんですか?」
先程、自分の目の前で凄惨な目に遭った山河が何事もなかった様にやって来たのだ。夕梨花は山河の首を見るが傷一つ無い。
「ああ⋯山河先生!ほら見なさい!何が殺されただ!馬鹿な事を言ってないで⋯「そんな筈ない!確かに首を⋯!!」
弓沢に必死に縋り付く夕梨花。
「相澤、先生はこの通り元気だぞ?」
満面の笑みで夕梨花を見る山河。
「一体何があったの?」
愛華は横に立つ宮ノ内に問うが、彼はただ笑みを浮かべているだけで何も言わない。
「爺ちゃん⋯化け物って何?女子高生に手を出したの?婆ちゃんに殺されるよ?」
「おい、私がそんな事をする訳ないだろう!」
「ムキになるのが怪しい⋯」
和気藹々と言い合う愛華と桜崎を唖然と見ていた夕梨花は、自分が見た恐ろしい光景と生きていた山河を見て到底理解が出来ずにパニックになり、白目を剥いて倒れた。夕梨花は駆け寄った教師達と大宮に急いで保健室に連れて行かれた。
愛華は倒れた夕梨花が何故あんな事を言ったのかずっと気になっていた。
(あんたも化け物って⋯)
ふと隣にいる宮ノ内を見た瞬間だった。急に頭に激痛が走り、ある光景が頭をよぎる。
真っ赤なドレスを着た私が高級そうな椅子に座り、その前には何人もの人が平伏していた。そして私の周りには守る様に四人の“騎士”が立っている。顔はぼやけて見えないが、異常な程の忠誠心は伝わってくる。
そして場面が変わり、血だらけで倒れる私を抱えて泣き崩れる“騎士”の一人。他の騎士も駆けつけるがもう遅く、死んだ“私”。
「⋯!⋯⋯!愛華!!」
頭を抱えて蹲っている愛華を必死に呼ぶ宮ノ内と心配そうに肩をさする桜崎。
「⋯⋯将太郎?」
愛華から発せられた名前を聞いて驚き耳を疑う宮ノ内。近くで聞いていた桜崎も驚いたが、孫の様子を伺っている。
「愛華⋯今なんて言った?」
「⋯⋯何が?っていうか近いんだけど!?」
何事もなかった様に宮ノ内を自分から引き剥がす愛華になんとも言えない顔をするしかない。
「今はまだ辛い事を思い出さないでほしいですけど⋯懐かしい響きですね⋯」
嬉しさが込み上げて愛華を抱きしめようとするが、愛華と桜崎に止められてしまった宮ノ内。それからすぐに愛華も含めた三人はまた理事長室に戻ろうと歩き出したが、ふと宮ノ内が席に座り作業をする山河の元へ行く。
「山河先生、一週間後に死んでください。死因は何でもいいですから」
まるで業務連絡をする様に言い残して平然と去っていく宮ノ内。
「はい!」
山河は元気よく返事をすると、深々と頭を下げてそんな悪魔の様な男を見送った。
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