友達は作れなそうですね。

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友達は作れなそうですね。

今私は、檻の中にいるパンダの気分だ。 前を歩く宮ノ内理事長の後ろに隠れて目立たない様に歩いてはいるが、効果は全く無い。驚愕する生徒や教師陣の視線が愛華に集中していた。 「あの⋯教室はまだですか?」 「貴女は二年A組なので二階の一番奥ですね」 「そんな殺生な~」 そう言って頭を抱える愛華を見て嬉しそうに微笑む宮ノ内。その殺人級の笑顔に周りから悲鳴じみた歓声が聞こえてくるが、彼の笑顔を独占する形の私には妬み嫉みの視線が突き刺さる。 「宮ノ内様といる子誰!?」 (宮ノ内様!?様って⋯えっ何で!?) 「見た事ないわよ!」 花森学園に入ってまだ一時間も経っていないが、もう後悔し始めていた。 「あの、やっぱり⋯「転校は出来ませんよ?あと退学も」 愛華の考えている事が分かるのか、先手を打たれる。宮ノ内は爽やかな笑顔だが、目が全然笑っていない。だがそれに屈せず反論しようとした時だった。 「あ⋯み、宮ノ内理事長!」 職員室から走ってくる大人しそうな中年の男性。 「ああ、水口先生。」 先程までの笑顔はスッと消え、冷たい瞳で水口を見る宮ノ内。 「あっ⋯。すみません、理事長!高島さんは私が連れて行きます。」 「いえ、大丈夫です。貴方は先にクラスに行き準備をして下さい。」 有無を言わせない程の底知れぬ圧で水口を黙らせる宮ノ内に狂気じみた怖さすら感じる。 「は、はい!!」 水口は情けない声をあげながら急いで階段を駆け上がって行った。その後にすぐ校長と教頭らしき初老の男性達が宮ノ内に近づいてきたが、何故かいない者の様にずっと無視されている。 「あの、良いんですか?」 「ん?何がですか?」 愛華が冷や汗を拭いているおじさん二人を見る。 「⋯ああ、彼女は私が連れて行きますので職員室に戻っていて大丈夫ですよ。それと生徒達を教室に入れて下さい。彼女が怖がっていますよ。」 相変わらずの冷たい口調でおじさん二人に指示するともう振り返らなかった。指示されたおじさんは教師陣に指示を出して生徒達を急いで教室に促していく。 「あの⋯忙しいんじゃないですか?」 「いえ、この時期の転校生は始めてですから心配ですし、少しでも長く一緒にいたいですから」 「はぁ⋯⋯え?」 (この人今何て言った?聞き間違いかな?) 頭を傾げながら何やら考えている愛華と笑顔のままそんな愛華を見守る宮ノ内は目的地の二年A組に着いた。 「ありがとうございました」 礼を言って教室に入ろうとしたが、何故か一緒に宮ノ内も入っていく。騒つく教室で水口だけは流れる汗を拭いている。 宮ノ内に釘付けの女子生徒と愛華は何故か男子生徒に見つめられて凄く居心地が悪い。そう、高島愛華は自覚はないが年齢の割には大人びた雰囲気を持った美しい少女だった。 「あっ、高島さん。ここに立って自己紹介をお願いします」 水口は宮ノ内を気にしながらも愛華に話しかけてくる。 「はい。高島愛華です。⋯よろしくお願いします」 だが反応がない。女子生徒からは睨まれてしまい途方に暮れていると、黙って見守っていた宮ノ内が一歩前に出る。 「このクラスは返事というものが出来ないんですか?」 宮ノ内のその一言で水口を始め、クラス全員が盛大に拍手する。だが愛華はまだ気まずいので急いで指示された席に座ると、宮ノ内はまた様子を見に来ますと言い残して出ていった。 いなくなったと同時に各方向から視線が突き刺さりかなり居心地が悪い。 「先生~!高島さんに質問して良いですか~?」 すると一人の女子生徒が手を挙げ、水口が何かを言う前に話し始める。多分この担任は生徒から馬鹿にされているのだろう。 「宮ノ内理事長と知り合いなの?それに香坂理事長代理ともいたわよね?」 「あ、いいえ。今日初めて会いました。」 愛華の答えに納得していないのか、何故か不満顔の女子生徒。 「え~?だって宮ノ内様が直々にクラスまで案内するなんて考えられないし~」 「そう言われても⋯」 私は水口に助けを求めるように見るが逸らされてしまう。 (何なのこの担任!) 「高島さんは転校してきたんだよね?何処から来たの?」 「地元の徳山高校です」 「へぇ~?家柄じゃないなら成績評価?スポーツ特待生?」 家柄じゃないと分かったら、彼女は愛華を見下す雰囲気に変わった。 「⋯成績?」 自分でも分からないので疑問形になってしまう。 「何で疑問形なの~?成績評価なら学年十位以内には入らないと退学になるわよ?」 「そうなんだ」 じゃあすぐに退学かなと思いながら教科書を鞄から出していると、その女子生徒が立ち上がるり愛華の目の前にやって来る。 「⋯何?」 「あんまり調子に乗らないでね?」 「乗ってないけど?」 怯まずにそう言い返した瞬間、愛華の筆箱が床に落ちて散らばる。そう、この女子生徒がわざと落としたのだ。それを見てクスクス笑う生徒達と、見て見ぬふりする担任。 愛華が気にする事なく落ちた筆箱を拾っていると、拾っていた手に激痛が走る。 「あ、ごめんね~?ゴミだと思って~!」 その女子生徒が上履きで私の手を思いっきり踏みつけたのだ。だが、その光景を見ても誰も止める事も心配する者もいない。それどころか見て楽しんでさえいる者もいる。 赤くなった手で我慢しながら受けた一限目が終わり、また絡まれる前に保健室に行こうと立ち上がる。 (あ、保健室って何処だろう⋯) ただでさえ広大な校内を一人で探すのは困難だ。困って途方に暮れていると、一人の女子生徒が近づいて来た。 「あの⋯保健室探しているの?」 三つ編みに眼鏡という絶滅危惧種キャラの大人しそうな女子生徒が周りを気にしながらも私に声をかけてくれた。 「うん、どこかな?」 「一階の職員室は分かる?」 「うん。」 「職員室の向かいにあるからすぐに分かると思う。それと⋯見て見ぬふりしてごめんね」 彼女、同じクラスの片桐明奈の話によると、先程の女子生徒は近藤茉莉奈と言いクラスのリーダー格で父親も名のある企業の社長な為にやりたい放題なのだそう。 「近藤さんは宮ノ内理事長の大ファンだから⋯これから気をつけて」 片桐はそう言い残してそそくさとクラスに入って行った。愛華は他の生徒達からの好奇な視線を耐え抜いて保健室の前までやって来た時だった。 「高島さん」 今一番会いたくない人物の登場に一歩後退りしてしまう。 「宮ノ内理事長⋯あの⋯こんにちは」 だが、宮ノ内の視線は愛華の痛々しい手に向けられていた。 「その手はどうしたんですか?こんなに赤く腫れて⋯何があったんですか?」 「あ~⋯ちょっと転んでしまって」 「転んだ怪我には見えませんね。とりあえず、手当てしてもらいましょう」 そう言って強引に愛華と共に保健室に入って行く宮ノ内を見つめる視線がすぐ近くにあった。
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