今、何故か名門校の前にいます。

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今、何故か名門校の前にいます。

高島愛華は私立花森学園の重厚な門の前に立っていた。 私立花森学園は全国のエリートや富裕層が集う日本屈指の名門校で有名な学校だ。なのに特にエリートでもなく、ごく普通の家庭育ちである私が何故この重厚な門の前に立っているのか不思議に思うでしょう。そう、事件は三ヶ月前に遡る。 以前は地元の公立高校に通っていた愛華は、その日も何事もなく無事に家路に着いた。 「ただいま~」 だが、いつもの母親の“おかえりなさい”が聞こえてこない。もうとっくにパートから帰ってきて家にはいるはずだ。愛華は不思議に思いながらもリビングのドアを開ける。するとソファーに座り紙のようなモノを見ながら考え込んでいる母親がいた。 「あれ、いたの?」 「ああ、おかえりなさい。今ね?パートから帰ってきたらこれがポストに入っていたのよ」 母親はそう言ってその紙を私に渡す。 「私立花森学園の⋯パンフレット?」 「花森ってあのお金持ちの子供が通う学校でしょ?何でうちのポストに入っているのか⋯悪戯かしらねぇ?」 私立花森学園は全国の富裕層や選ばれしエリートが通うエスカレーター式の名門だ。選ばれしエリート達は学費免除で通う事が出来るが、私は選ばれしエリートでは無い。学力はまあまあだと自分では思っているが、運動能力は壊滅的だ。飛び抜けた才能も無いごく普通の女子高生なのに何故ザ・普通の我が家にこんなパンフレットが届くのか? 「何でうちに届いたのかな?え⋯っていうかパンフレットって送られてくるもの?」 「でも高島愛華様で届いてるわよ?しかも⋯学費を免除しますって書いてあるのよ!?」 「はぁ!?何かの詐欺じゃない?」 「⋯そうよね。気持ち悪いから捨てちゃいましょう」 そう言って母親はパンフレットを捨てて夕食の準備にキッチンへ向かい、愛華はテスト勉強に頭を切り替えてそこで終わったはずだった。だが、それから二日後には花森学園の関係者という人が我が家を訪ねて来た。 見た目は四十代前半くらいだろうか。高級そうな紺色のスーツを着こなした気品あるイケオジに頬を赤く染める母親を横目で見ながら呆れている愛華に、捨ててしまったあのパンフレットを鞄から出して再び渡してくるイケオジ。 「あの、イケオジではなく香坂と申します。花森学園の理事長補佐をしております。」 「あ、すみません聞こえていました?」 「声に出てましたから」 「じゃあ、イケオジ改め香坂さん。何かの間違いですよね?もし詐欺を働くつもりならうちはお金ありませんから⋯あっ!向かいの安達さんの方が良いですよ?」 疑いの目で香坂を見る愛華だが、香坂そんな愛華の言動に呆れている。 「詐欺師に人の家を薦めるのは如何なものかと思いますよ?」 「えっ?やっぱり詐欺なんですか!?警察案件ですか!?」 愛華は慌ててスマホを手に取ろうとしたが、香坂に止められる。 「⋯いえ、詐欺じゃないですよ。どうしても高島愛華さん、貴女には我が花森学園に通って頂きたい!!いや、通ってもらいます!そして私のこの弱りきった胃を⋯お願いします!助けて下さい!!」 先程までの気品漂う雰囲気は何処へやら、必死の形相で頼み込んでくる香坂にドン引きする愛華と母親。 「あの、どう言う事なんですか?いきなり通って下さいと言われましても困りますし、学費免除も才能ある選ばれた子のみと聞いてます」 母親がチラリと愛華を見て不思議そうに頭を傾げる。かなり失礼だが、否定できない。 「お母様の疑問も分かりますが、愛華様が入学する事が日本の経済界を救う事になるのです!」 「はい?でも、場違いです。それにこの子はもう地元の高校に通っていますので申し訳ありませんがお断りさせて下さい」 母親の正論に愛華も頷く。だが、香坂にとってのここでの諦めは職を失うという事だ。まだ家のローンが残っているので、そう簡単に諦められない。 「お母様。花森学園に入学しただけでも就職には有利ですし、コネもできますよ?それに⋯⋯“良い”出会いがあるかもしれませんよ?」 香坂の魅惑の言葉に母親の顔色が変わる。 「玉の輿⋯良いわね」 「ふふ、選び放題ですよ?」 悪い顔で笑う母と香坂を見て、何となく売られる気分になる愛華。 「私は絶対に嫌だよ!」 そう言って全力で拒否したが、その時の香坂と母親のほくそ笑む姿は今も忘れられない。あの後すぐに愛華を取り巻く環境がガラリと変わった。まず出世とは無縁だった父親が、いきなり社長室に呼び出されてその場で部長に昇進したのだ。 「お嬢さんが花森学園に通うそうだな。君も頑張りたまえ」 まだ決まっていなかったのに何故知っているのか?疑問しか湧かないが、次に母親のパート先でもある花丸スーパーでも大幅に時給が上がる事になり歓喜する両親。そして何より花丸スーパーの店長も何故か花森学園の件を知っていたので、香坂が手を回したのはほぼ確定だった。喜ぶ両親に嫌だと言えずに転校が決まったのだった。 生憎、愛華は通っていた高校に友達と呼べる子もいなかったので転校についても悲しむとか嫌だという感情は無く、淡々と手続きして終わった。香坂曰く、花森学園でこの時期の転校生は珍しい事なので最初は騒がれるかもしれないが、慣れるまでは我慢して欲しいと言われた。 そして現在。 門の前に立ち、広大でとても学校とは思えないモダンで綺麗な建物に唖然としていると、見た事もないような高級車が次々と止まり始めて、各々の運転手がドアを開けると富裕層だとすぐに分かる生徒達が降りてくる。そんな光景をポカンと見ていた愛華だが、生徒達は愛華の横にいる人物に驚いて急いで頭を下げる。 「⋯。香坂さんはただのイケオジじゃないんですか?」 「理事長の前で絶対にイケオジと言わないように。もし言ったら家のローンが払えなくなり、家族で路頭に迷う事になりますので絶対に言わないで下さい」 「え、私の責任重くないですか?理事長ってそんなに怖いんですか?」 「理事長は気さくで穏やかな人ですよ?」 「え?言ってる事とだいぶ違うんですが、何ならパワハラオヤジってイメージですが⋯」 愛華が香坂と話しているのを見て驚く生徒達。 「おい、香坂理事長代理と話しているやつ誰だ?見た事ないぞ?」 「でもうちの制服着てるわよ?」 「そう言えば今日さぁ!宮ノ内理事長が来るって聞いたわよ!」 周りが騒がしくなってきたので、香坂と共に逃げるように校舎に入っていく愛華。だが、想像を絶する広大さと高級感が漂う校舎に開いた口が塞がらない。そして校内も香坂の登場に生徒達がざわつく中で一緒に歩く愛華も無駄に注目されてしまう。 「無駄に広すぎません!?」 「そうかな?ここの他に別館も多数ありますよ?」 「迷う事決定!」 軽い絶望感を抱きながら暫く歩いていると一番奥にある理事長室と書かれた部屋の前に着いた。香坂がドアをノックしようとした瞬間に勢いよく開かれるドア。そしてそのドアを開けた人物に深々と頭を下げる香坂。 「宮ノ内理事長」 宮ノ内理事長と呼ばれた男性は、私が想像する理事長像と大幅にかけ離れていた。見た感じ二十代後半から三十代前半で、黒髪を綺麗に中心で分けていて目鼻立ちがはっきりした清潔感がある長身の男性だった。まぁ、一言で言うと超絶イケメンだ。高級感が漂うスーツを着こなしていて、大人の色気が半端ない。 「ああ、君が高島愛華さんだね?待っていたよ、入って下さい」 世の女性が一瞬で虜になりそうな笑顔で、私を部屋の中に促す宮ノ内理事長。 「あ、はい。失礼します」 愛華は臆する事なく部屋に入る。中は広々としていて、モダンな家具が並ぶお洒落な部屋だ。物珍しいくて部屋を見渡す愛華を、何故か嬉しそうに見つめてくる宮ノ内理事長。 「気に入りました?」 「え?ああ、お洒落な部屋ですね?」 そう答えると満足そうに愛華を高そうなソファーに案内すると、向かいのソファーに座る宮ノ内理事長。何故か香坂は緊張気味に立っている。 「高島さんは、紅茶でいいかな?」 「え、いえ!大丈夫ですが、できれば濃いお茶でお願いします!」 香坂が呆れたように愛華を見てるが無視する。 「濃いお茶だね」 そう言い、立ち上がると机にある機械を押して誰かに飲み物を持ってくるように指示している。そんな姿も絵になるなぁと感心してしまう。 「さて、花森学園にようこそ。歓迎するよ」 「ありがとうございます。でも何で私なんですか?お金持ちじゃないですし、何かに特化しているわけでもないので不思議で仕方がないんです。ずっとモヤモヤしてて⋯」 「そんな事ありませんよ。貴女ほど特化した人はいませんよ」 そう言いながら微笑む宮ノ内理事長は美しい絵画の様だが、何故か少し背筋が寒くなる。 「あ~⋯えっと、退学にならない様に精一杯頑張ります。」 「はは、それは絶対に無いですよ」 そう言い切る宮ノ内理事長。すると、タイミング良くドアがノックされて有能そうな女性が飲み物を持って入って来た。女性はチラリと愛華を見たと思ったがすぐに逸らし、飲み物をテーブルに置く。 「遠慮しないで飲んで下さい」 「あ、はい」 私は置かれたお茶を口に含んだのはいいが咽せてしまう。濃いお茶を頼んだがあまりにも濃かったので咽せてしまったのだ。 「ゴホ!すみません!」 「大丈夫!?これを使って!」 宮ノ内理事長はポケットから高級そうなハンカチを取り出して私に渡す。 「大丈夫です。すみませんでした。あの、このハンカチは洗って返します」 「ああ、気にしないで大丈夫だよ」 そう言ってハンカチを愛華から奪うようにしてポケットにしまう宮ノ内理事長の視線がふとその女性を捉える。女性は異常な程にガタガタと震えている。 「君はもう“来なくて良いよ”」 「す⋯すみませんでした!これからは気をつけます!ですから⋯」 「香坂」 宮ノ内理事長に呼ばれた香坂が必死な女性を部屋から引き摺るように連れて行った。かなり気まずい雰囲気の中で二人きりはきついが何も言えない。 (見た感じ穏やかそうだけど何か危険だわ!) 「ごめんね、また新しいお茶を⋯「大丈夫です。」 「そうですか。じゃあ教室に行きますか?」 「行きますかって…」 「折角ですから私が案内しますよ」 そう言うと徐に立ち上がり、部屋を出ようとしている。愛華は何も言えずにただ唖然と後をついていく事しか出来なかった。
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