第二章 生

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第二章 生

死んでしまった。 僕には、大切なご主人様がいた。 ご主人様の温かい笑顔が大好きだった。 ご主人様は、ツムギという名前の人間だった。 「ワン!」と吠えると、ツムギは、「ペロー!」と言って、 ギュッと抱きしめてくれた。 温かくて、大きな手だった。 色んな食べ物をくれた。 ツムギがくれたものは、全部美味しかった。 散歩の時、色んな人に挨拶できていて、 僕も見習おうと思った。 いつも優しくて、でもちょっぴり心が弱くて、 嫌なことがあった時は、僕をたくさん頼ってくれた。 だから僕は、ツムギの泣き顔を隠すように、顔をペロペロした。 すると、ツムギは笑ってくれる。 僕は嬉しくて、「ワン!」と吠えた。 ツムギが、僕の体に顔を突っ込んでくる時は、 水っぽい感じがして、なんだかムズムズしたけど、 僕は我慢して、おとなしくしていた。 その方がいいかなと思ったから。 面白い遊びをたくさん教えてくれて、 成功したらお菓子をくれた。 お菓子をもらえることよりも、 ツムギと遊べることが幸せだった。 僕は、ツムギが一番大好きだ。 ツムギは、僕の方を向いていた。 僕の方をジッと見ていた。 なんだか、悲しそうで、辛そうだったから、 顔をペロペロしてあげた。 ツムギは笑ってくれたけど、 いつもみたいに元気じゃなくて、 僕は悲しくていつもよりも大きな声で「ワン!」と吠えた。 今もずっと、ツムギと会いたい。
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