1人が本棚に入れています
本棚に追加
第二章 生
死んでしまった。
僕には、大切なご主人様がいた。
ご主人様の温かい笑顔が大好きだった。
ご主人様は、ツムギという名前の人間だった。
「ワン!」と吠えると、ツムギは、「ペロー!」と言って、
ギュッと抱きしめてくれた。
温かくて、大きな手だった。
色んな食べ物をくれた。
ツムギがくれたものは、全部美味しかった。
散歩の時、色んな人に挨拶できていて、
僕も見習おうと思った。
いつも優しくて、でもちょっぴり心が弱くて、
嫌なことがあった時は、僕をたくさん頼ってくれた。
だから僕は、ツムギの泣き顔を隠すように、顔をペロペロした。
すると、ツムギは笑ってくれる。
僕は嬉しくて、「ワン!」と吠えた。
ツムギが、僕の体に顔を突っ込んでくる時は、
水っぽい感じがして、なんだかムズムズしたけど、
僕は我慢して、おとなしくしていた。
その方がいいかなと思ったから。
面白い遊びをたくさん教えてくれて、
成功したらお菓子をくれた。
お菓子をもらえることよりも、
ツムギと遊べることが幸せだった。
僕は、ツムギが一番大好きだ。
ツムギは、僕の方を向いていた。
僕の方をジッと見ていた。
なんだか、悲しそうで、辛そうだったから、
顔をペロペロしてあげた。
ツムギは笑ってくれたけど、
いつもみたいに元気じゃなくて、
僕は悲しくていつもよりも大きな声で「ワン!」と吠えた。
今もずっと、ツムギと会いたい。
最初のコメントを投稿しよう!