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第七章 返
目を開けると、知らない景色だった。
「ツムギ!」
手をギュッと握られる。
「ツムギ!聞こえる!?お母さんよ!」
「お母さん…」
私は、言われた言葉をただ繰り返す。
でも、一言。心の底から搾り出した言葉が、
空気を震わせ、音になった。
「ペロは?」
お母さんは、静かに笑って、
「ペロは大丈夫よ。ツムギも休みなさい。」
と言った。
私は、安心感で、眠りに落ちた。
次に目を覚ました時は、お父さんもいた。
遠く離れたところに住んでいるはずのお姉ちゃんもいた。
「ツムギ。無事でよかった…!」
お父さんが涙をこぼして、私の手を握った。
「ツムちゃん…!よく頑張ったね!」
お姉ちゃんも泣きながら、笑っていた。
「リハビリから始めないといけないそうよ。
大変になるだろうけど、頑張ろうね!」
お母さんがそう言って、私のスマホを渡してきた。
「スマホ…。」
「修理に出しといたのよ。ひびがすごかったから。」
「ひび…?なんで?」
空気が凍った。
「あ、あら、ツムギ、覚えてないの?
事故にあってしまったの。それで入院してたのよ?」
「事故…なんで?」
「それは…
「すみません。面会時間の終了が近づいているので、
お帰りいただけないでしょうか。」
お母さんが喋ってるのを遮って、
少しきつそうな看護師さんが病室に入ってきた。
「あ、すいませーん。」
3人は、さっさと帰る支度をして、
「明日、遅くなるかもしれないわ。ごめんね?」
そう言って病室から出ていった。
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