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庭先のボアさん
それにしても。攻略対象の魔法使いマッケン様、騎士アッサン様達は――ヒロインのススリさんと出会い。性格、見た目も、彼女の好みのに変わったなぁ……
乙女ゲームでのマッケン様は花が好きで、性格も落ち着いていて。人前に出ることを好まなかった、学園で最高ランクの魔法使い。
その彼がススリさんに攻略されてから、自信を持ち始めてたのか……人を見下し、言動は嫌味になった。
極力関わりを持たないようにしていたのに、私を見かけると……魔法で脅してきたり『チビどけ』『ススリを虐めるな』『ススリと、ローレンス様の恋の邪魔だ』などの、言いがかりをつけられた。
もう1人――騎士アッサンはローレンス殿下の幼馴染。ススリさんに会う前は……婚約者の私にも優しくしてくれて。彼は剣を愛し、弱気者を守る騎士になると言っていた。
しかし、ススリさんと出会ってから。
『ススリと、ローレンスに近寄るな』『おまえの、存在自体がウザい』『消えろ!』彼に剣を抜かれて、喉元に突き立てられたこともあった。
2人とも、ススリさんが初恋なのかな?
いい意味で魔法おバカと脳筋おバカで、可愛い人達だったけど……こっちはお手上げだった。
ああ……いやぁ〜マジで、会いたくないのに。
ススリさんは魔法の本を諦めていなかった。
翌日の早朝にまたやって来た――私はフカフカベッドとお揃いの着ぐるみパジャマで、キキ達と寝室でまったり、お寝坊を楽しんでいた。
物音が聞こえて目が締めた。
「……? え――また、来たの?」
「来たね」
「来ましたね」
「きた、きた」
目をこするキキ達。
私は昨日、ボアさんに貰った鈴をリーン、リーンと鳴らした。ベッドを抜け出して昨日と同じく玄関横の窓から眺めると、ススリさんとマッケン様、アッサン様の姿が見えた。
あなた達は暇なの? ススリさんは王妃教育とか、お茶会。他の2人はそれぞれ部署に分かれて仕事は? それも、こんなに朝早くに来るなんて……迷惑な人達だ。
「マッケン、アッサン、隅々まで探して!」
「かしこまりました」
「了解した」
昨日と同じく――彼女達にはボロ屋に見える、家の探索をはじめた。
バキバキ、ドガっと物を壊す、破壊の音が聞こえる……こんなにも躊躇せず、家を壊せるなんて……
「ない、ない! なんでないの!!」
昨日とは違い、完全武装とでも言うのか――厚手の手袋、動きやすい髪と服装で手にハンマーを待つ、彼女の姿に……ハァと、ため息がでた。
あ、庭先にボアさんの魔力を感じた。彼女は初めてここに現れたときと同じく、花をまとい魔法で庭に現れた。そして、中には入らず、家の外からコチラを眺めている。
――ボアさん。
そのボアさんの魔力を。魔法使いのマッケン様が感じたのか、割れた窓から庭先を見つめるも。
「おかしい?」
「どうしたの、マッケン?」
「ススリ様。今、凄い魔力を庭の方から感じたのですが……もしや、ススリが探している魔女か?」
そのマッケン様の報告にアッサン様は窓に近付き、割れたガラスを取り除き、窓枠を壊して庭を確認した。
「アッサン、魔女はいたの?」
「いいえ……ススリ様、誰もおりません」
と、首を横に振った。
だが、何かを感じ怯えるマッケン様は……少し離れた場所で、驚きの声をあげた。
「ハァ? 誰もいない? いや、とてつもない魔力を感じた……う、わぁっ!!! ススリ様、アッサン、庭から……得体の知れない、まばゆい光が!!!」
マッケン様は悲鳴に近い声を上げ、尻餅をつき、震えながら黒いローブの袖で顔を覆った。しかし、ススリさんとアッサン様には見えていないらしく……マッケン様の怯える姿を見て、スウッと息を呑んだ。
「?」
その3人の様子をキッチンの入り口で、パジャマのまま――キキ達と眺めていた。
「プッ」
「クスクス」
「フッ」
3人を見て、口に手を当て笑いを堪えるキキ達と。
庭先で、コチラに微笑みながら手を振るボアさん。
私には、何をそんなに怯えているのか、分からなかった。
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