魔女になりました?

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魔女になりました?

 私は転生者で悪役令嬢、公職令嬢のマージア・グラシエである。この乙女ゲーム『恋する、キャピキャピパラダイス』通称『恋キャピ』は前世で遊び尽くしたので、いやって言うほど内容は知っている。  あれは真夏の暑い日――10歳の私は屋敷の廊下で転んで、頭を打って前世の記憶を思い出した。  うわっ、ここは乙女ゲームの世界で。  この、くすんだ青い髪と瞳は悪役令嬢のマージアだ。  悪役令嬢だと気付いた日から……今、18様になるまで時間ができると、屋敷の書庫で一人頭を抱えていた。 「はぁ、王子に婚約破棄された後どうする?」  この乙女ゲームって婚約破棄後、国外追放一択だったから、違う国で店を開く? それとも冒険者にでもなろうかしら?  うーん、どれもいまいち。    子供の頃から王城で王妃教育ばかりだったから、しばらくは何もしたくない。  ――拙者、働きたくないでござる。  できるのなら田舎でのんびり朝寝坊して、昼寝もして……前世、趣味だったお菓子を作ったり、恋愛の本を読んで、まったりした日々を過ごしたい。  それを実行するには婚約破棄されても取り上げられない、自分だけの家をゲットするしかないよね。  今、所有している別荘はお父様の名義だから、婚約破棄後、絶対に取り上げられるだろうし。  どうすれば、ぐうたら出来るんだろうか。    ❀    そんな、ある日の午後。    いつものように向かった屋敷の書庫で【あなた、魔女になりたくない?】と書かれたタイトルの豪華な革張りの、鍵が掛かった一冊の本を見つけた。  この本は昨日まで書庫になかったから……お父様が買って来て置いたのよね。まったくお父様ったら、いくらお金があるからといって。変な壺だとか、微妙な絵画……変わったものばかり買ってくる。  それも【あなた、魔女になりたくない?】だとか変な本。  でも、この鍵を開けてこの本を読めば……私も魔女になれるの? そんな話だったら素敵だわ。  どうせ、お父様は買うだけで満足して読まないだろうし。部屋に持って帰ってベッドの上で読もうと、その本に触れたとたん。  ――えっ? "ガチャッ"と、かかっていた鍵が開き、眩い、緑色の魔法陣が浮き上がった。そして女性の声で『この本の鍵を開けた貴方に、私の全てを授けましょう』と聞こえ、緑の魔法陣の光は消えていった。 「…………」  前世、ファンタジーゲームなどで見たことはあるけど、緑色の葉っぱが散りばめられた、キレイな幾何学模様だった。もう一度見たいと見るも、本に掛かっていた鍵は跡形もなく消えていて。    さっきまで【あなた、魔女になりたくない?】と書かれていた本のタイトルは【あなたは魔女になりました、おめでとう!!】に変わっていた。  私、魔女になったの?  こんな簡単に魔女になってもいいの?    開いたままの本は書物ではなく……中がくり抜かれた収納箱になっていて、緑色の石が埋め込まれた金色の鍵が入っていた。  その鍵を手に取ると、私の脳裏に田舎の風景と一軒家が浮かび【この屋敷】から東に→→→【魔法使いの家】簡素な地図が浮かんで消えていった。  その地図の通りだと……屋敷を出て東に真っ直ぐ進めば、今見えた魔法使いの家に着く? 「この鍵は、その家の鍵?」  婚約破棄後の、ぐうたら生活に一歩近付いた?    私は本を脇に抱えて書庫からルンルンと、部屋に戻ったが。部屋に入ったすぐに見える鏡の前で……足が止まる。  ――へっ?  くすんだ青い髪と瞳が……鮮やかな緑色に変わっていた。  
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