11.希望と絶望の狭間

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11.希望と絶望の狭間

●  ブランシュとミシェルは突然、助けに入った謎の人物に驚く。ブランシュも見知らぬ人物。反応から見るにミシェルも知らないと思われる謎の人物。  驚く二人の前に立っている謎の人物は深く被ったフードを片手で掴み、下ろした。現れたのは整った容姿の美男子の顔。肌は白く、髪と目は不思議な色をしている。水色を主体に金色が混じった神秘的な髪と目にブランシュとプテは目を奪われる。美男子は長い髪を頭部の後ろで一部を一つに束ね、残った髪をそのまま流しているようだった。  ミシェルとは違った容姿端麗さにブランシュは間抜けな声を発しそうになったが、何とか堪えて黙る。  …………帰ったら、フレーチェに占ってもらおう。  もしかしたら、今の自分は特上美男子の遭遇率が上昇しているのかも知れないと、ブランシュはこっそり思った。  アホなことを考え始めているブランシュに強い殺気が肌を刺すような錯覚を感じさせる。  そうだ。まだ、敵を倒していない。  ブランシュは先程、敵の剣が掠めた腕を触った。既に出血は止まっており、血は乾いている。見ずとも、傷が塞がっているのはブランシュは知っている。己の身体だ。この肉体が特殊であり、驚異的な再生力を持っているのをブランシュはよく知っている。 「…………」  謎の人物の登場のおかげでミシェルの意識を怪我から外せたのは僥倖と言っても良いだろう。  ブランシュは意味を持って、金色の目を細めた。  未だ、敵はそこにいる。今はそれを制圧しなければいけない。ブランシュとミシェル、そして謎の人物を相手に敵である彼女は笑みを浮かべる。 「フフフ……、フフフ……、何者が来ようとも構いませんわ……!」  震えた笑い声と共に、ブラッディロードの女性は肩を小刻みに揺らし、戦意を三人に見せる。ブラッディロードの強い力が大きな衝撃波となって、ブランシュ達の肌を通して感じさせる。  明確な敵意と、ブラッディロードという種族の異質で強い力を。  それを感じたとしても、ここで足を引く気はブランシュも名前すら知らない謎の人物もなかった。 「…………えーと、君は……私達の味方ってことでいいのかな?」  ブランシュは自分の数歩前に立つ名前も知らない謎の美男子に話しかけた。彼はブランシュの方へ振り返らず、前を向いたままブランシュに答える。 「君が……、この町を救うために戦っているのであれば……」  謎の美男子のよく通る声がブランシュにしっかり聞こえた。どういう経緯で彼がこの町に来たのか、目的も不明だがブランシュは笑みを浮かべて声をかけた。 「──ああ、私達はこの町を救いに来た。──私は、ブランシュ。良かったら、君の名前を聞かせて欲しい」  ブランシュに名前を訊かれ、美男子は数回程に瞬きをすると無表情のまま、ブランシュに名前を教えた。 「────エテル」 「…………そうか、エテル。よろしく頼む」  にっこりと笑顔を浮かべたブランシュは床を蹴り、駆けた。その速度は刹那。ブランシュの魔力を纏った拳の一撃がブラッディロードの女性に真っ直ぐ、穿たれる。  ブラッディロードの女性はそれに反応し、防御する。ブラッディロードの力が込められた赤い防御壁。ブランシュの魔力とブラッディロードの力がせめぎ合う。  …………修繕費は援助してもらうかな。  ブランシュは魔力を込めた拳に更に魔力を集中させ、爆発させる。ブランシュの魔力によって廊下の外側の壁が一部、大きな穴が空く。外壁が吹き飛び、ブランシュはブラッディロードの女性の腹に蹴りを入れ、女性を外へと無理矢理に飛ばす。呻き声を上げた女性は己の中の力を使用し、空中で止まる。 「おや、空中戦の心得があるのかい」  ブランシュの蹴りを受け、吹き飛ばされた女性が空中で動きを止めたことにブランシュは意外そうな声を上げた。  靴のつま先で床を叩きながら、ブランシュは落ち着いた態度を崩さない。 「…………」  ブランシュの言葉を傍で聞き、先程のブランシュの動きを見ていたエテルはブランシュを横目で見た。とても、素人の動きではない。  ブラッディロードを前にしても慌てず、臆すことなく対峙している時点でブランシュは只者では無い。この世界ではブラッディロードという種族は脅威であり、異質な存在。手練れの武闘家や魔法使いであったとしても、ブラッディロードと一対一での戦闘は避ける。  …………何者だ…………。  エテルでさえ、単身で潜入はしたが戦闘を避けて来た。気取られないように連中の頭を抑えるつもりで────。 「エテルくん?」  思考に耽るエテルにブランシュは首を傾げる。純粋に「どうかしたのかい?」と訊きたそうなブランシュの表情を視界に入れ、エテルは小さく首を振った。 「…………いや、」 「何でもないのであれば、いいけど……。さて、どう無力化しようか」  息を吐いてブランシュはブラッディロードに視線をやる。女性は妖艶な笑みを浮かべ、空中に浮遊しながら己の勝利を信じているかのような高慢な態度である。その尊大さ、ブランシュは思い当たっていて苦笑する。  実にブラッディロードらしい。  無力化、という言葉を使ったブランシュにエテルは問う。 「…………殺さないのか」 「私はこの町を助けに来ただけだ。彼らを裁くのは私の役目ではないよ。…………それに、そういうのは苦手でね」  どことなく過去と、含みを持たせているブランシュの言葉にエテルは変わらずの無表情で小さく頷く。  自分が多くを語らないように、ブランシュも多くは語らない。根掘り葉掘りと訊かれるよりは良いか、とエテルは外のブラッディロードに視線をやる。刀、と呼ばれる特殊な剣を手にエテルは空中に浮くブラッディロードへと向かう。  駆け出し、跳び、速度を維持してブラッディロードへと刃を向けた。反応されるのは分かりきっている。ブラッディロードは易々と、エテルの刃を赤い障壁で受け止めた。腕力を込めたところで、この種族には通用しない。  ブラッディロードは個体差もあるが耐久力、再生力、防御力、どれもが他の種族よりも抜きん出て高い。エテルの腕力だけでは押し切れない。 「…………!」  腕から刀へ魔力を込める。そして、もう一つの力も。エテルの刃はブラッディロードの防御壁に亀裂を入れた。力の押し合いに、エテルが勝つ。  察したブラッディロードの女性が許すはずもなく、彼女はエテルの刃を受け止めながらも腕をエテルへと向ける。  しかし、彼女に今あるのは現実逃避の自信だった。どう考えても劣勢なのだが、長年のプライドが自身の敗北を許さないのだ。 「────スターライトシュートッ!」  星の光。煌めき、紋章陣から放たれる矢のように飛ぶ光の線。幾つもの光の線が飛び、ブラッディロードへと向かう。女性はブランシュの魔法を防御障壁で阻もうとするも、ブランシュの魔法操作は巧みであり女性の防御障壁の隙を突いて障壁を破壊。その瞬間、エテルはブラッディロードの女性に間合いから斬撃を入れる。  斬撃から光が放たれる。雷が地に落ちたような一瞬の、大きな衝撃。  プテの背後にいたミシェルは衝撃に驚き、プテにしがみつく。 「だいじょぶ? ミシェル」 「ああ……。今のは、彼の力か……。────魔法、とは違う力に感じたが……」 「プテにはよくわかんない。でも、悪い気配じゃなかったのは分かったよ〜」  ミシェルの言葉にプテは朗らかな様子を見せる。プテは突然現れた謎の人物エテルに対し、目立った警戒心をミシェルに感じさせない。ブランシュも、ミシェルから見ればエテルへ警戒心を持っていないように見える。  顔を上げたが、ミシェルはなるべくプテから離れないようにする。あのブラッディロードがどうなったのか、ミシェルは気になった。  病院の廊下、外側の壁はぽっかりと大きな穴が空いている。ブランシュの魔法で壊された壁の向こうには外が見え、廊下側にいるミシェルからは距離が離れているので視認は出来ない。だが、ブランシュの追撃とエテルの斬撃で彼女に勝利したとミシェルは感じた。  プテのもちもちとした触感を感じながら、ミシェルは不安に眉を寄せつつ、プテを両腕で抱き締めた。 「…………もちもち」 「きゃ〜、プテったらもちもち〜」 「私が触ると怒るくせに……」  魅惑であり、癒しの触感であるプテのもちもちボディを堪能するミシェルと、もちもち言われながら触られて喜ぶプテ。自分が触ると抗議が飛んでくるブランシュは不満そうに呟く。  ブランシュは唇を尖らせ、拗ねた子供のような表情をした後、通常の顔に戻しエテルの方へと近づく。エテルは相変わらず無表情を貼り付けたまま、倒れたブラッディロードに視線を向けている。ブラッディロードの女性は目と口を開けたまま、意識を失っているようで、指一つ動かさずに地面に仰向けの状態だ。  念の為に、ブランシュは拘束魔法を発動し、気絶しているブラッディロードの四肢を拘束した。 「プテ、いつもありがとね」  ブランシュはにっこりと笑顔を浮かべ、プテに礼を言う。その言葉を聞いたプテは手を挙げた。 「プテ、大活躍! えっへん」 「…………?」  ブランシュに礼を言われたプテは胸を張り、「えっへん」と誇らしさを表現する。  二人のやり取りを聞いていたミシェルは首を横に傾け、不思議そうな表情をした。頭の上に疑問符が浮かんでいるようだ。  ミシェルは二人の会話の意味が分からない。プテはすぐにそれを察し、ミシェルに説明をする。 「んとね〜、ブランシュは不器用なの。プテがブランシュの魔力操作の微調整してるんだよ〜」 「…………そうなのか…………」 「そうなの! だから、ブランシュとプテはいっつも一緒なんだよ〜! 一緒〜!」  プテから語られた、ブランシュとプテの関係が少し見えてきたミシェルは納得した。  ブランシュが難なく魔法を使いこなしているように見えていたが、実際はそうではないのか。ミシェルは新たに得たブランシュの情報から、少しずつブランシュという謎めいた人物の霞かかった印象が晴れていくような気がした。  ブランシュはエテルのもとへと歩み寄る。エテルの目の前には気絶しているブラッディロードが倒れている。エテルの攻撃によって気を失い、ブランシュの拘束魔法で縛られた彼女が戦線復帰するのには時間がかかるだろう。  ブランシュは名前しか知らないエテルに話しかけた。 「──久しぶりに刀を使って戦う人を見たよ。エテルくん、君は腕が立つ人だとお見受けする」 「…………。──ブランシュ、それはこちらの言葉だ。先程の魔法、星属性の魔法だろう」  エテルに返されたブランシュは苦笑する。一般人や戦闘経験があまりない者であれば、ブランシュが戦いに使用した魔法の属性など分からないだろう。希少属性を使った魔法を知っている、というだけでもエテルが相当な魔法知識を持っているのだとブランシュは頭で考える。  お互いに、ただ者ではないと思っているのは容易に想像がつく。 「…………互いに、訊きたいことは山とあるだろうね。君が星属性の魔法を知っているように、私も君の力に心当たりがある。精霊使いだろう。 エテルくん」 「…………」  ブランシュに言われたエテルは眉を僅かに動かす。かまかけでもなんでもない、断言であることにエテルはブランシュへの警戒心を高めた。図星を突かれたことによるエテルの反応を横目にし、ブランシュは苦笑を浮かべる。 「……君が精霊使いであっても、君がどういう立場であるかは私には分からない。それ以上は私から訊く気は今のところないよ」 「…………。────こちらも、今は君の身の上は訊かずにいよう。この町を救うことが……、優先すべき事項であるからな」  出会ったばかり、互いに腹の底が知れない状態ではあるが、先ずは町をブラッディロードから解放すべきという優先事項がある。  一時的な協力関係でもあるのだ。この件が片付けば、敵として相対する可能性だってあるのだと、エテルは考える。近くに立っているブランシュが、どう考えているかは分からない。  エテルの視線に気づいたブランシュは笑みを浮かべている。 「……その通りだ。今はこの町を解放することが優先しなければいけないことだ」 「────ブランシュ、この町の現状をどこまで把握している?」 「町にどれ程のブラッディロードがいるか、正確な数は解らない。それと、町長の話によれば、人質がいるってところかな。私は人質の救出を優先に動いている」  ────敵を引き付けてくれているフランとセイアのことは口に出さず、ブランシュはエテルと情報共有をする。  人質、という単語を聞いた時、エテルは眉を寄せ、難しい表情を浮かべる。ブラッディロードを相手にしながら、人質の救出。強力な力を持つブラッディロードという種族を相手に、よくブランシュは救出を決断したものだと感心する。 「…………話を聞く限り、解決への難易度が高い。それでも、町を救うと決めたのか……」  エテルは思っている言葉を素直に口にした。この戦いにブランシュがどう勝算をしているのか気になるところではあるが……。  落ち着いているエテルの言葉を受け、ブランシュは苦笑する。 「お節介な性分でね。──それと、猪突猛進なところがあるせいで、感情のままに動く悪癖があるんだ」  小さく「困ったものだね」とブランシュは自分自身をそう評価した。  ブランシュの言葉を聞き、エテルは表情を変えずに、ブランシュの目を見る。まじまじと見るが、ブランシュの瞳は珍しい色をしている。金色の、美しいと惹かれる瞳だ。これまで生きていた中、エテルはブランシュのような金色の瞳は見た記憶がない。  謎めいているブランシュという人物をよく表している瞳だとエテルは感じた。  …………綺麗だが、深く何かがあるような金色の目。  …………ブランシュ、君は何者なんだ。  思っていても、それは口には出せなかった。今すべきことは身の上話ではない。  エテルはブランシュに話しかけた。 「これから、どうする?」  行き先や目標を確認しなくてはいけない、とエテルはブランシュに訊く。  訊かれたブランシュは真剣な眼差しで病院の方を見る。 「…………病院内を見回って、人質を捜そうと思う。敵と遭遇すれば、勿論叩くよ」 「解った。俺も君と同行させてもらう」 「…………そ、そうかい? 私は構わないが────」  ブランシュは病院の方に視線をやり、プテとミシェルを見た。二人から離れた距離にいるミシェルとプテ、ミシェルはブランシュの視線に気づき、首を傾げた。不思議そうな表情を浮かべているミシェルと、変わらずに笑顔のプテを数十秒たっぷり見たブランシュはエテルの立つ方へ、身体を向けた。 「二人を紹介しよう」  ブランシュは微笑し、エテルに言った。  ────同行するのであれば、名前は知っておいた方が良いだろう。  倒したブラッディロードは拘束魔法をかけた状態で転がしておいた。気絶しているので情報を訊くことが出来ない。先のブラッディロードが情報を口にしなかったこともあり、ブランシュは敵から情報を引き出せる可能性が低いと諦めかけている。  ブラッディロードは放置し、ブランシュとエテルはプテとミシェルがいる病院へ戻った。ブランシュが破壊した壁は大きな口を開けているかのようだ。  ブランシュはエテルに二人を紹介する。 「エテルくん、プテとミシェルくんだ。こっちの白い身体のよくわからない生物がプテで、そっちがミシェルくん。ミシェルくんは旅をしていて、偶然にもこの町を訪れていたらしいんだ。町がこの状態で出るのが少し、難しくてね……」  ブランシュの話が終えた直後、プテが元気よく手を挙げた。 「は────い! プテがプテだよ! ヨロシクね~」  大人ぐらいの身長を持ち、大きな体躯の持ち主であるプテ。真っ白な肌と思われる表面に、全体的に丸いフォルム。頭には帽子を被っているプテの姿を見て、エテルは眉間に皺を作った。  …………何だ、この生き物。  そうエテルが思っているであろうことは容易に想像がつく。奇妙な姿形をしたプテという謎の生物。ミシェルも初見は驚いたのだ。 「エテルくん、触ってみてもいいよ」  ブランシュがニッコリと微笑み、エテルに言う。エテルは瞬きを繰り返し、ブランシュとミシェルの顔を交互に見る。プテに慣れたミシェルはプテの背中に身体を寄せ、目を細めている。 「エテル、プテを触ってみてくれ」  ミシェルは気持ち良さそうにプテのもちもちボディを堪能している。  みょうちくりんなプテという生物に警戒心を抱きつつも、エテルは恐る恐るプテに手を伸ばした。  ぷに。  まさにそう。そんな効果音がしそうな感触だ。指でプテの身体を押した感触。エテルは固まった。  ぷに。ぷにぷに。  柔らかいのにもちもちとした弾力。エテルの心に衝撃が走った。 「………………」  無言でプテの身体をつつくエテル。どうやら、ミシェル同様にプテの魅惑のマシュマロボディを気に入ったらしい。ブランシュは微笑ましく、三人を見ていた。  プテは男性二人に挟まれて「きゃー」と無邪気に喜んでいる、 「…………ん?」  微笑ましい三人を見守っていたブランシュの身体に違和感が過った。違和感……、と表現するのは少し違うかも知れない。よく知っている気配を感じ取ってブランシュは首を傾げた。  …………何故、ここに…………。  手を貸してくれるのであれば、確かに心強いのだが……。正直、来るのであれば姉が怒るのではないかとか。ブランシュは考えたが、その思考中に空間に白い光の粒が散り始める。優しさのある白い光粒が空間に散るのだ。それは魔力の残滓のようなものだ。  一瞬、そう刹那。白い、人の形をした光が現れる。どこからともなく、ブランシュの懐に現れた光。  光が弾け飛び、光に包まれていた女性が姿を現す。彼女はブランシュに抱き着く。 「ルルー……」  気配を感じ取った時に誰なのか解っていたブランシュはやや呆れ気味に妹の名前を呼んだ。自分に抱き着いてきたのは末の妹であるルルーである。ルルーはにこにこと可愛らしい笑顔を浮かべ、顔を上げブランシュに声をかけた。 「えへへ、来ちゃった!」  突然、どこからともなく現れた女性ルルーに勿論、ミシェルとエテルは驚く。  転移魔法を使って来た妹にブランシュは長子の怒った姿を思い浮かべる。  ルルーは可愛らしい微笑みを浮かべた。一見すると、ふわふわした美少女の様な末妹はブランシュから離れるとプテの傍に立っているミシェルとエテルに身体を向け、礼をした。 「私、ルルー。ブランシュお姉ちゃんの妹です! よろしくお願い致します」  丁寧に挨拶をしたルルーに視線を向けたミシェルとエテルは揃って、次にブランシュへ視線を送った。ブランシュも困惑しているのか苦笑を浮かべ、二人の視線に返す。  プテだけは通常運転で元気だった。 「ルルーだ~! わあ、一緒に行けるんだねえ~! プテ、賑やかなの嬉しい!」 「私も! お姉ちゃん達の役に立てるように頑張るね!」  ふわふわと揺れるルルーの長い髪。緩くウェーブのかかった髪は華やかさを引き立てているようだ。ルルーの髪の色、目の色、共にブランシュとよく似ている。緑色で少し、毛先に金が混じっている不思議な色。ルルーの顔立ちは可愛らしく、大きな金色の瞳が純粋さを物語っているようで、エテルとミシェルはルルーから目を離せなかった。  そんな二人を見て、ブランシュは独り納得しているらしく、頷いている。 「ルルーは可愛いからねえ。惹かれるのも仕方ないよ、二人とも」  自分には無いルルーの魅力にブランシュも誇らしい。実際に、プテという癒しはあったものの、ルルーの登場で場の空気が和やかになったのだ。厳しい戦いの渦中であれば、精神の均衡を保つために癒しは必要だ。  ルルーはブランシュの方を向き、「お姉ちゃん」とブランシュのことを呼ぶ。 「お姉ちゃん、お二方のお名前教えて欲しいな」 「……あ、そうだったね。こちらはエテルくんとミシェルくんだ」 「エテルさんとミシェルさん、うん! ありがとう」  ブランシュに二人の名前を教えてもらったルルーは笑顔を浮かべる。 「そういえば、アルルお姉ちゃん達は合流した……してないよね」  ルルーの言葉にブランシュは驚く。 「…………まだ合流していないかな。しかし、随分と大きな話になってしまった……。デリアは怒っているだろうなあ……」  長子の腕を組み、怒っている姿を思い浮かべ、ブランシュは溜め息を吐きたい気分になった。長子のデリア、次子のブランシュ、三子のアルル、末子のルルー。仲が良い四兄弟の中で長子のデリアは心配性であり、妹達のことになると暴走する。  …………今回の件、ルルーを巻き込む気はなかったのだけど…………。  けれど、手を貸してくれるのであれば心強い。  …………アルル達、フラン達は大丈夫だとは思うが…………。  仲間達や兄弟達はきっと大丈夫だ。長い月日を共にしてきた信頼がある。相手がブラッディロードであっても、仲間達は対応出来る。  ブランシュは金色の目を細める。  …………この町が奴等に狙われたのは偶然、ではないのだろうな。  気がつかれないように、ブランシュはミシェルへと視線をやった。謎めいた旅人。ミシェルから感じられる異質な気配、そして恐らくは見られている。  ミシェルを通し、誰かの視線がブランシュ達に向けられているのをブランシュは感じていた。  …………誰が視ていようと構わない。  自分のするべきことをするだけだ。  ●  ──────気づかれている。  暗い闇の中、椅子に腰を掛け、彼を通して視線を向けている相手は此方のことに気づいている。静かな闇に包まれた空間の中、考える。  ……西の大陸、中央政府、十二闘将、守護姫。  立ちはだかる壁は多く、そして、未知の勢力になり得る者。  ────ブランシュ。  彼を通し見てはいるが、こちらの存在に気づいているのだろう。警戒し、あまり情報を渡さないように努めている様子が解る。  己の願いの成就を望み、ここまで生きてきた。深く刻まれた絶望が、この身に残る限り終わらない。 「──何者であろうとも、俺の願いの成就の壁となるのであれば……」  妨げとなるのであれば、容赦はしない。この世界に産み落とされた絶望を、消えない記憶を、全て────。  赤い涙が目から零れ、頬を伝って落ちる。  苦しみ、怒り、悲しみ、慟哭、痛み。  薄い笑みを浮かべ、拳を握りしめる。もう、止まることはできない。 「……終焉へ向かう。俺の全てを賭けて」  消すか、消されるか。単純だ。  そして、立ちはだかる最大の壁はブランシュと彼に名乗った、あの人物になる。そんな予感がするのだ。
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