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01.白い月の魔女2
01.白い月の魔女2
●
──魔界の残滓。それは地上の世界とは別次元の世界である不可侵領域。地上とは稀に空間が合わさって、そこから出来る歪みから魔界の残滓と魔界の欠片は地上へ現れる。
魔界の欠片は魔界の強い瘴気を持っているため、魔力で自身を守らなければいけない。魔界の残滓は魔界の瘴気が微量のため、魔界の欠片よりもそういう部分は対処がしやすい。
ブランシュは草を分けて駆け魔界の残滓を金色の眼で捕捉し、拳を握り締める。
魔界の残滓の姿は異形。獣のような毛皮を纏い、四足歩行、顔は犬に近く、紫色の目玉が顔に九つ。身体からは肉質の触手が数本、飛び出している。
この姿は魔界の生物としてかなり成り損ないに近い。思考する知能を持たず、破壊と殺戮の本能のみで行動する。
目標を捉え、ブランシュは勢いのまま魔界の残滓の顔面に一発入れる。
『──!!』
言葉になっていない声を上げて、魔界の残滓は吹き飛ばされて木にぶつかる。山の中で生えたしっかりとした巨木は魔界の残滓をぶつけられても平気だ。
魔界の残滓の気配を感じることが出来るブランシュには感知できる範囲内で、複数の魔界の残滓が周囲にいることが分かっている。全ての魔界の残滓を破壊しなければいけない。
ブランシュは魔法を構築し始める。体内のエネルギーを魔法として構築、持てる属性を乗せて放出するのがこの世界の魔法の一つである。そして、魔法は術者によっては全てに干渉し破壊してしまうことも容易い。周囲に結界魔法を張って、魔力から守らなければいけないのだ。
……私の魔法から、アイネが結界で守ってくれる。
だから、何も考えずに魔法を使える。
「望むは赤き焔、燃え盛り、我らの理想郷へと火を灯し、導かんことを──! フレイム・シュート!」
ブランシュの前に赤い紋章陣が複数展開され、魔界の残滓の気配を感知したブランシュは全ての個体に炎属性の魔法を撃つ。炎の一撃は全弾、魔界の残滓に命中し派手で大きな音、言葉になっていない声が上がる。
『──!!』
草木の中に隠れていたものも、ブランシュに顔面一発入れられた個体も全て魔法によって燃やされる。だが、魔界の欠片と魔界の残滓共に耐久力と再生力が高い。
己の体内の魔力を持って、魔界の残滓はブランシュの炎属性の魔法を振り払う。
『があああああっっ!!』
ようやく魔界の残滓が悲鳴らしい悲鳴を声にだした。
痛みを感じているのか、炎の魔法に煩わしさを感じての怒りの叫びか、どっちにしてもブランシュのやるべきことは一つ。
……殲滅すること!
ブランシュは次の一手にかかる。腰に着けている小さな鞄を片手で開き、中をまさぐる。手に慣れた感触があり、ブランシュはそれを握った。
それは魔法石。事前に自分の魔力を結晶化させて石にし、様々な効果を得られる。
「──光槍の一撃! シャイニング・スピア!」
手に握った魔法石を投げて複数の紋章陣をブランシュは展開する。紋章陣はブランシュの操作技術によって、魔界の残滓へと光の槍を飛ばす。
「追装展開!」
更に紋章陣をブランシュは間髪入れずに複数展開される。紋章陣より光の槍が発射っされ、魔界の残滓を攻撃する。
「あわわ! 初級魔法なのに、なかなかの衝撃……!」
アイネは自分とブランシュのいる広範囲を防御魔法系統でも修練が必要な結界魔法で守っている。攻撃魔法は如何に弱く撃っても、自然を傷つけてしまう。
ブランシュが憂いもなく攻撃できるように、周囲を結界魔法で守っているがブランシュの魔法の衝撃がアイネの手から腕へと伝わる。
「大丈夫? アイネ」
「大丈夫!」
アイネの言葉をしっかり拾っていたブランシュはアイネに声をかける。声をかけられたアイネはしっかり頷く。
両腕を上げて紋章陣に手をあてて、アイネは結界魔法の維持に集中する。
「……魔界の欠片、魔界の残滓、……皮肉なものだね……」
魔界の産物の高い耐久力と再生力。ブランシュは光の槍を喰らっても、まだ傷を自己修復し立ち上がるその姿にブランシュは苦笑する。
魔界の残滓は紫色の目玉をあちらこちらにさ迷わせたあと、攻撃主であるブランシュを捕捉。
ブランシュを敵とみなして、魔界の残滓の一体が突進してくる。避ければ後方のアイネが危険だ。ブランシュは避けずに、突進してきた魔界の残滓の顔面に拳を入れる。
体内の魔力を拳に集中させて威力を上げたブランシュの一撃は魔界の残滓の目を潰す。
『がああああああああっっ!!』
さすがに痛みと違和感があるのか、魔界の残滓は絶叫を上げた。
ブランシュは顔色一つ変えずに魔界の残滓に視線をやっている。
「……ブランシュ」
前を向き、魔界の残滓と対峙しているブランシュの背中を見てアイネは眉を下げる。
「──魔力の気配を追うと周囲には別の個体が四体いるか……」
まだ少し、時間がかかりそうだとブランシュは溜め息を吐く。
●
青い月のような美しい色の長い髪を後ろで一つにまとめた、ポニーテールと呼ばれる髪型をし、可愛らしいブラウスと白いロングスカートを着た女性がソルローアルの町の中を走る。
大きな金色の瞳に愛らしい容姿を持つ彼女は町の整備された石畳の道を駆け、ある建物の前に立ち止まる。
「……はあ、はあ……ふう……」
ドアの横に付けられた端末に視線を向ける。慣れた操作で暗証番号と指紋認証を入力する。
ピコン、という完了の音と鍵が開く音を聞いた彼女はドアノブを握って、ドアを開ける。
「お姉ちゃん! ブルーシアお姉ちゃん!」
女性は建物の中に入り、声を上げて姉を呼ぶ。この建物はソルローアルの自警団拠点。いざというときに町の者達が避難できるように、と大きく頑丈に造られている。
女性の声が届いたのか玄関の奥から姉が姿を現した。
妹と同じく、青い月のような美しい髪をツインテールという髪型にし、妹と同じ綺麗な金色の瞳を持っている。白いゆったりとした上着の上に、赤い情熱的なワンピースを着た姉と呼ばれる女性は妹を優しい表情で出迎えた。
「あら、いらっしゃい。ノエル。どうしたの?」
「魔界の残滓が出たって聞いて……! ブランシュが倒しに行ったって聞いて……!」
ポニーテールの髪型をしているノエルと呼ばれた妹は慌てた様子をみせた。妹が様子とは逆に姉のブルーシアは落ち着いている。
ツインテールに束ねた長い髪を揺らし、ブルーシアはノエルの前に歩き、妹の肩に手を置く。
「ブランシュなら大丈夫よ。魔界の残滓は耐久力と再生力は高いけど、白月の魔女には今更よ」
ブルーシアは首を傾げて、妹に微笑みを向ける。
ノエルはそれでも心配そうな表情を浮かべ、ブランシュを思う。
…………無理、してないかな。
ノエルは心の奥で、ブランシュの精神を気遣う。強い心を確かに持っていても、戦うということは容易いものではない。
それに、ブランシュは────。
「お姉ちゃん、私、ブランシュのところに行ってくる!」
「ダメよ」
「何で?!」
「危険だし、魔界の残滓ならブランシュで事足りるわよ」
「……私はブランシュにこれ以上、傷ついて欲しくないよ!」
「ノエル、ブランシュは大丈夫よ」
自分と同じ、姉の金色の両目を見てノエルは黙る。姉の眼を見れば、長いこと姉妹をやってるノエルには分かる。
ブルーシアがブランシュを信じてること。
「…………うん」
あれからどれほど時が過ぎようとも、ブランシュの心は癒えない。それはずっと一緒にいるブルーシアも、ノエルも見ていれば分かる。
だから、無茶をして欲しくないのだけれど。
「……私が心も癒せる魔法使いだったら……」
ぽつりと呟くノエルの頭の上にブルーシアは手を置く。
傷つき、悲しみを背負い続ける者の心を癒せる魔法があればいいのにとずっと思っているのに、その魔法を修得出来ない。
否、心を癒す魔法など存在しないのだ。
●
「はい、ブランシュ。お疲れ様」
腰に下げていた大きめの鞄からアイネは包みを取り出してブランシュに渡す。受け取ったブランシュは包みを解く。
中からパンが顔を出し、ブランシュは一口食べた。
「ありがとう、アイネ。あー、パン美味しい……!」
頬肉を動かしてパンを食べているブランシュは地面に胡座をかいて座っている。そよ風が吹き、生い茂る草と二人の髪を揺らす。
先程までの戦いの傷は辺りの自然にはついていない。そこらかしこに倒れた魔界の残滓が力なく、ブランシュの攻撃に討たれ、事切れている。
魔界の残滓は微量ながら魔界の瘴気を持っている。人にも自然にも毒でしかないので、ブランシュはパンを頬張りながらも指を鳴らす。
ぱちん、と指を鳴らしたあとに横たわった魔界の残滓が白銀の炎に包まれる。
限られてはいるが属性にある浄化の炎の魔法だ。魔界の残滓を浄化、消滅させる。
「…………」
パンを食べつつ、白銀の炎に包まれ消滅していく魔界の残滓に視線を向けたブランシュの表情を間近に見て、アイネは眉を下げる。
「……ブランシュ、大丈夫?」
アイネの気遣いの言葉にブランシュは瞬きを繰り返して、数秒後に優しい笑みをアイネに向けた。
「──大丈夫だよ。昔に比べたら、随分と軽くなった気がする」
ブランシュは空を見上げる。木々に生えた葉が空を隠してしまいそうだが隙間から、白い雲と青い空が視界に映る。血に濡れながら見ていた昔の空と、今見えている空は色が違う。
空を見ながら、ブランシュは思い出す。隊長から託された思い。隊長の言葉。
『…………俺の代わりに世界を見てきてくれ』
ブランシュは思い出して、正面へ視線を意味なく向けた。その姿を隣で座って見ていたアイネは鞄から銀色の細長い筒を手に取って出す。銀色の細長い筒は頭が蓋となって取れるようになっており、アイネは蓋を外す。蓋は底までそこそこ深く作られており、アイネは蓋がなくなった筒の容器を傾けて蓋に茶色の液体を注ぐ。
茶色の液体に満たされた蓋をアイネはブランシュに渡す。
「スープまで持ってきてくれたのかい? ありがとう」
受け取ったブランシュは蓋の中に注がれた茶色の液体の匂いを嗅いで、嬉しそうに笑む。
温度を保つ容器に入れてきてくれたのでまだ温かい。ブランシュは有り難く、アイネの心遣いに感謝して蓋の中のスープを一口飲む。
程良い塩味とスープによく合う香辛料の味と香りが口内に広がる。具は細かく刻んだ野菜で特に味はしない。
「……ふう……。身体、あったまる〜」
ブランシュは機嫌良さそうに一息吐く。魔界の残滓との戦いで消耗した身体に美味しいパンとスープは癒しを与えてくれる。
美味しい、とは本当に疲れた身体に効く。
「……このスープ、アイネが作ったの?」
「うん。今日のスープは私、担当!」
「アイネは器用だね」
「そ、そんなことないよ! お父さんに教えてもらって作ってるし……」
ブランシュに褒められて、アイネは少し頬を朱に染めてもごもごと口を動かし、照れた様子を見せる。
本当なら誰かと結婚して幸せな生活を送っていても良い筈なのに、アイネはずっと両親のパン屋を手伝いながら、ブランシュのことも世話をしてくれている。ブランシュとしてはかなり申し訳ないのだが、いつも甘えている。
アイネと町ソルローアルの話をしながら、座っていたブランシュは周囲に張り巡らしていた己の魔力の結界に侵入者がいることを感知した。違和感と魔界側の属性を感じて、ブランシュはスープを一気に飲み干して空になった蓋をアイネに渡した。
「……アイネ、どうやらまだ残党か新手がいたらしい。対処するよ」
ブランシュの落ち着いた声と言葉にアイネは再び、緊張感を持った表情をし頷いて、スープが入っている筒に蓋をして鞄にしまう。
急いでブランシュは立ち上がって、結界へ侵入者してきた気配を追う。
いつもは魔界の残滓や欠片はこんなに出ない。空間の歪みが近くで出現しているのかとブランシュは考える。
「……プテ! 今日はもう一気にい……あ……!」
ブランシュは相棒の名前を呼んで気づく。いつも一緒にいる相棒を今日は置いてきてしまった。
……プテ────!!
白くてもちもちし、ブランシュの横にいつもいる相棒、プテ。置いてきてしまったのか、プテが来てくれなかったからか。ブランシュは口を大きく開けて間抜けな表情をした。
プテがいないと色々と戦う時に不便なのだ。
「そういえば、プテちゃんいないね……」
「プテいないと威力高い魔法使えない……! 殲滅魔法なんて使ったら、山吹き飛んじゃうよ〜!」
アイネは嘆くブランシュの横に立って、困ったわ、と眉を下げる。ブランシュも相棒の不在に頭を抱える。
山の中の魔界の残滓を全て倒すには高い威力と広範囲の魔法が必要だ。何も考えずにそんな魔法を使えば山や自然に甚大な被害が出る。アイネの防御結界があっても、貫通する恐れがある以上はプテのブランシュの魔力コントロールが必要だ。
「く……! こうなったら、アイネに協力してもらうしか……!」
「え! 私には無理じゃないかな?! ブランシュの魔力をコントロールできる技量ある人は限られてるじゃない?」
「そうだけども……! あああ! 大雑把な性格がこんなところで災いするなんて……! 隊長にコントロール技術学んだのに! 申し訳ありません! 隊長!」
ブランシュは記憶の中の隊長を思い浮かべて謝罪する。記憶の中の隊長はへっぽこコントロールのブランシュに根気よく教えてくれており、彼の努力もあってそれなりにコントロール技術を学んだブランシュだが……。
そんな小さくはない問題にブランシュは困ったと険しい表情を浮かべる。
「ブランシュ! あれ!」
ブランシュが一人で騒いでいる内に魔界の残滓が数体、アイネとブランシュの気配を追って現れた。
アイネが気づき、草木をかき分けて現れた魔界の残滓をブランシュは視界に入れる。
成人の身の丈を超す身長、二本足で立って歩き全身は毛で覆われている。顔付きは犬のようだが目が六個ある。簡単に言うなら、巨大な犬が二本足で立って歩いているが、目玉の数が異様で、破壊衝動からか理性なく口から涎を溢している。
それが目視で七体。ブランシュはため息を吐きたくなった。
こんなに出ることは滅多にない。やはり、近場で魔界との空間に大きな歪みが出来ているのか。閉じる作業が必要な歪みが出来ているなら、ブランシュの仕事は増える。
「プテ……、気づいて来てくれないかな」
ブランシュは呟くと、息を大きく吸って吐く。金色の瞳が魔界の残滓を捉え、脚に力を入れて踏み込む。地面を蹴り、ブランシュは現れた魔界の残滓の元へと一気に間合いを詰めた。魔力を纏った拳を魔界の残滓の一体に叩き込む。衝撃音が出るほど、強い力を叩き込まれた魔界の残滓は吹っ飛ぶ。
ブランシュの行動で魔界の残滓はブランシュを早急に排除せねばならないと認識したのか、長い爪と大きな拳でブランシュに襲いかかる個体がいたがブランシュは手のひらで受け止めて、襲いかかってきた個体の拳を握ると力任せに引っ張り、空いた腕で拳を握って魔界の残滓の顎に下から拳を突き上げた。
『ぎゃおおお!』
顎を破壊された個体は地面に転がって叫ぶ。その間もブランシュは動きを止めず、三体目の魔界の残滓に足払いをかけた。
戦っているブランシュの後方でアイネは結界魔法を構築し、発動していた。
「……ブランシュ……」
祈るようにアイネは結界魔法の維持に集中する。
「…………」
ブランシュは三体目の個体の頭を真っ直ぐに殴り飛ばす。色々と嫌な感触はあるが、考えないようにしている。
そして、戦うブランシュの近くに新手の魔界の残滓が複数現れた。
「……多くない?」
アイネが声に出す。
ブランシュは眉を寄せて鋭い視線を新手の魔界の残滓達に向ける。
「多いね」
これはもう仕方ないかな、とブランシュは思い始める。かなり身体に負担はかかるが、広域殲滅魔法を使って魔界の残滓を一掃しなければ町に降りてしまう可能性がある。
アイネにも協力してもらおうとブランシュが判断を下そうとした時に。
「ブランシュ────!!」
白銀の紋章陣がブランシュの隣に出現し、紋章陣から白い物体が勢いよくブランシュに突進して抱きついた。
「へぶっ!」
変な声を上げたブランシュだが、白い物体を抱えて魔界の残滓の攻撃を避けた。
「プテ!」
白くてもちもちな身体、元気な声。視界いっぱいに映ったプテの身体にブランシュは嬉しそうな声を上げた。
プテは自分のほっぺをブランシュの緑色の髪に擦り付けて嬉しそうに言う。
「もう! プテを忘れちゃダメだよ────!」
その間も魔界の残滓はブランシュと、ブランシュに抱きついているプテに長い爪で攻撃するがブランシュは躱わす。
プテが飛び出してきた紋章陣からブランシュの髪色と瞳の色を同じものを持った少女が出てくる。少女は手に棒付きの飴を持っており、口に含む。
「アルル! 危ないから下がって!」
アイネが紋章陣から出てきた少女に声をかける。アルルと呼ばれた少女は後方のアイネに顔を向けた。
「うん、でも大丈夫だよ。アイネ」
アルルは自分を認識し襲いかかってきた魔界の残滓の攻撃を防御魔法で防ぐ。展開された白銀の紋章陣が防御障壁となって、魔界の残滓の長い爪を阻む。
「お姉ちゃん、プテ忘れちゃダメじゃない」
「わ、忘れたわけじゃないよ……!」
「ほら、私とプテもサポートするから広域殲滅魔法撃てるでしょ?」
「うん! ありがとう!」
アルルの言葉にブランシュは頷いて、腰に巻いていた鞄から魔法石を数個取り出す。魔法石を地面にばら撒き、ブランシュは魔法を発動させる。
「ヴァイス・ムーンドライブッ!!」
白い月の光のような魔法。ブランシュが腕を突き出し、白銀の紋章陣が展開され魔法石によって詠唱を破棄しての魔法発動。
目を覆うほどの白光がブランシュを中心に広がっていく。
「わわ! 衝撃が!」
アイネがブランシュの魔法による衝撃を体に感じて、慌てる。そのアイネの身体をアルルが支える。
背中にアルルの両手が当てられ、アイネの身体を支えてアルルはアイネの防御魔法をもサポートする。
「わひゃ────!!」
プテが変な声を上げながら、ブランシュの服を掴む。衝撃と白い光が広がっていき、魔界の残滓を包んでいく。
辺りに魔力を張り巡らしてブランシュは魔界の残滓を感知。更に魔法を発動させた。
「行くよ! 追装展開! ムーンライト・レイ!」
ブランシュの声にアイネは目を大きく開く。
「ブランシュ?! これ以上は────!!」
「大丈夫! 私とプテで支えるから!」
大慌てのアイネにアルルは落ち着いた様子で声をかける。
轟音が辺りに響き、ブランシュの周囲に白銀の紋章陣が複数展開される。大技とも言えるであろうヴァイス・ムーンドライブに更に魔法を発動。
まさにバカ魔力量。
山全体にブランシュの攻撃魔法が発動し、魔界の残滓は消滅していく。
町にも白光は届き、自警団の窓から確認していたブルーシアは一言。
「バカ魔力……」
白光が消えたあと、ブランシュは深く息を吐き。アイネは力が抜けて座り込んだ。
「……ふえ……」
知ってはいるが、やはり魔女の子らしい魔力量であるとアイネはブランシュの力を改めて思い知る。
ブランシュは体内の魔力消費よりもコントロールに使った気力消費が激しかったらしく。
「少し疲れちゃった」
と、お茶目な表情で言った。
「白月の魔女……」
アイネは深いため息と共にブランシュに言ってやった。
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