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02.出発の前に
●
────戦場独特の臭いと雰囲気。まだ、頭にこびりついて離れない。
自分の両手は常に誰かの血で濡れており、これが罪の証なのだと思ってきた。それは長い年月を過ぎても変わらない。
…………一生、背負うと決めた。
だから、言葉にせずとも隊長も同じ想いなのだと理解していた。
『俺達は赦されないのでしょうね』
戦場から戦場への移動の時に隊を連れて休憩の一時を入れた。戦場近くの森林だというのに血も肉も流れていない川の側で、剣に手をかけたまま座る隊長の横に腰を下ろして呟く。
隊長の金色の目には川のせせらぎが映っていた。隊を守るために、隊長は警戒を怠らない人だった。本当は捨て駒部隊と云われているのに、部隊の戦死者が異様に少ないのは隊長の努力と強い想いからだった。
隊長は顔を上げて、自分を見る。
『…………そうだな。どれ程、時が経とうとも俺達は忘れてはいけない』
静かな声で隊長は言う。
『────俺達は正しいことをしているのではない。それは忘れてはならないことだ』
隊長の声は水面の波紋の揺らぎのように静かだが、その言葉は強く己の罪を刻みつけるように……。
忘れてはならない。
誰かの命で染まった両手を。
自分達は軍人として戦った。
けれど、決して正しいことをしているのではないと。
『俺もずっと背負って行きます。この罪を……』
流れる川を見て思う。この戦いの行き着く先を自分はどこかで分かっていた。けれど、さらに先の、その先の未来に自分はどうしているのだろうか。
戦場で散った全ての命が未来の結果で報われているのだろうか。
川は流れ、誰かの涙もどこかへ運んでくれるだろう。
『…………ブラン』
隊長の指先が自分の目尻に触れる。
『…………すみません、隊長』
『構わない』
隊長は気づいていた。自分の精神が耐えられなくなって来ていることに。
だから、俺を逃がした。この先の戦いから。運命から……。
────本当に己が情けないと思う。今でも、そう思っている。
●
…………あ、寝てた。
昔の記憶の夢を見て、現実に戻ってくる。瞼を持ち上げて、視界に映ったのは見慣れた天井。自警団の休憩室だ。
「おはよう、ブラン」
目覚めてすぐのブランシュに声をかけてきたのは見知った女性だ。青い月のような色の美しい髪を二つに分けて束ねたツインテールの髪型をし、綺麗な金色の瞳を持っている。
彼女の名前はブルーシア。ブルーシアはいつものワンピースを着て一人がけのソファに腰を下ろしていた。
「どれぐらい寝てた?」
ブランシュは額に手をやってブルーシアに訊く。
「二時間ぐらいかしら。……その様子だと昔の記憶を夢で見たようね」
「…………」
ブランシュは顔を上げて大きく息を吐いた。
いつもなら起きて開口一番、お腹空いたーと元気よく言うブランシュだが疲れた様子を見せて無言なのはそういうことだろうとブルーシアは思う。
「起きたらノエルが声かけて欲しいって言ってたわね」
「…………ノエルが?」
「一応、帰って来て早々に休憩室で寝始めたあなたに疲労軽減の魔法かけたのよ」
「あんなに魔界の残滓が出るとは思ってなくてね……」
ブランシュは一人がけのソファで仮眠をとっていた。膝にブランケットがかけられていたので、優しいノエルが治療ついでにブランケットを持って来てくれたのだろう。
あー、とブランシュは意味のない声を出してブランケットを畳む。
ノエルの気遣いもあって身体は軽い。頭は昔の記憶を夢で見たからか本調子ではないが。
「ノエルは……、ヴェルと一緒かい?」
「どうかしらね」
「まーた、ヴェルをいじめたのか? ブルーシア」
「失礼ね。妹を守るなら私よりも強くなってもらわないと」
「ノエルに嫌われても知らないよ」
ブランシュはソファの横に置かれたサイドテーブルを見る。テーブルの上にはお菓子と飲み物が置かれていた。お菓子は手作りのクッキーらしく、お皿に乗せられ透明なシートで湿気ないように保護されている。飲み物はボトルに入っており、保冷のための材質で中は見えないがブランシュの飲めるものだろう。
「アイネには本当に申し訳ないな……」
ブランシュは言って、お皿に乗ったクッキーを食べようと保護シートを外す。
「そう思うなら責任取ればいいじゃない」
「…………アイネにはもっと良い人が現れるよ。アイネを守れる、カッコイイ人」
「…………。ブラン、まだ気にしているの? 彼とやり合ったこと」
「…………当たり前じゃないか。戦場だったとはいえ、アイネにとっては大切なお父さんなんだよ」
ブルーシアの深い溜め息にブランシュは気まずさを感じながらアイネの手作りクッキーを一口食べる。ブランシュが好きなミルクの味が濃いクッキーで美味しい。
遠い昔のこととはいえ、パン屋の店主でありアイネの父親である彼とブランシュは死闘をしたことがある。お互い、故郷のためとはいえ本気の殺し合いをしたのだ。
下手をすればアイネの仇になっていたのに、自分を何かと気にかけてくれるアイネにブランシュは複雑な心境を抱えていた。
「…………まあ、確かに…………そうね」
ブルーシアも当時を思い出したのか、ソファの肘掛けに頬杖をつきブランシュから目線を外して遠くを見る。
「クッキー頂いたら、ノエルのところへ会いに行くよ」
もう話題にしたくないのかブランシュはノエルへ会いに行く、とブルーシアに告げた。
ブルーシアは小さく頷く。
「それが終わったら、また自警団に戻って来てくれる? あなたが捕まえた連中から一通りの話を聞けたから」
報告書の作成をしたらしく、ブルーシアは紙の束を取り出してブランシュに言った。
魔界の残滓が現れ、対処へ行ったブランシュはそういえばそうだったと自分の頬を指先で掻く。
町の外で配送業者に絡んでいた男達を拘束して、自警団に引き渡したのだ。
「手間かけてすまなかったね。分かった、ノエル達に会ったら戻って来る」
ブランシュが言うとブルーシアは目を細める。
「……長い付き合いだから、あなたがどういう行動を取るか手に取るように分かるの。ここに戻って来る前にちょっと旅支度の準備をしてきて欲しいわ」
浅い付き合いならばここで疑問を感じるものなのだろうが、ブルーシアの言葉通りに長い付き合いだ。ブランシュの行動をブルーシアは理解している。
「…………、うん、分かった」
ブルーシアの言葉を素直に信じてブランシュは頷くと、クッキーを食べ終わる。中身が入ったボトルと空になった皿を持って、ブランシュは腰かけていたソファから立つ。
休憩室の中を歩いて、ブランシュはドアの前に立つ。ドアに取り付けられたセンサーがブランシュを感知し、ドアが開く。
ブランシュは振り返らず、ブルーシアに言う。
「また、戻って来るね」
返事はないと分かっているのでブランシュはそのまま部屋から出た。
廊下にでたブランシュは画面を起動する。ブランシュの前に四角い画面が一瞬で現れる。画面を慣れた操作で動かし、メッセージ送受信画面の中で表示された文字部分を指で打って入力。メッセージを書いて送信した。
返事を待ちつつ、ブランシュは廊下を歩く。
…………旅支度か。
ブルーシアがそう言うなら、準備をしないといけない。
隊長の、自分の代わりに世界を見てきてくれ、という言葉を思い出す。悲観的な感情が心に現れだした。誰も見ていないから、溜め息を深々と吐く。
画面を起動しながら廊下を歩くブランシュ。数分後、開いている画面にメッセージのアイコンが表示された。先程送ったメッセージの返信だろう。内容を見てブランシュは目指す場所へと足を進めた。
────数十分後。
ソルローアルの町の中を歩いてブランシュが向かったのは、デザートと飲み物が買える小さな店だった。可愛らしいと視覚的に思わせる石造りの壁、装飾。小さめで派手さがない花が咲く、手入れが行き届いた花壇。購入した飲食物は店の外側のウッドデッキでも食べられて、店内でも食べられる。
ソルローアルは他の町との交流は少ない。
飲食店などに客がいても顔見知りが九割。だから、ブランシュは店に入って驚く。
店の中のテーブル席の一つに見知らぬ人物が座っていたのだ。
「…………、」
思わず、「え」とか声に出しかけたが、声を飲んでやり過ごす。
旅人だろう、と結論を出してブランシュは空いているテーブルの一つに近づいて、椅子を引いて腰を下ろす。
あまり見かけない紅い色の長い髪と、露出が少なさそうな服装の旅人。じろじろと見るのは失礼なのでブランシュは気にしないようにメニューを手にとって開く。
………………クッキー食べちゃったんだよなあ。
アイネの手作りクッキーを美味しく頂いて数時間も経っていない。
「…………う────ん」
小さく悩みの声を出す。
「いらっしゃい。ブランシュ」
「シュテルン。こんにちは」
ブランシュが座るテーブル席へ注文を取りに来たのは金色の髪と瞳の女性だ。女性は少し癖がある長い髪をサイドテールにしている。ブランシュとは顔見知りであるシュテルンという女性。
彼女はこの店で働いている。
シュテルンは明るい笑顔でブランシュに声をかけ、ブランシュは挨拶をした。
その次にシュテルンは訊いてくる。
「メニューどうする?」
メニューを訊かれたブランシュは苦笑いをして、シュテルンに言う。
「もう、クッキーとか食べちゃったんだ……」
「あら……。でも、今日は私からご馳走したいから何か食べて欲しいわね」
「何かあったのかい?」
「魔界の残滓討伐のお疲れ様代よ。報酬とかないタダ働きなんだから」
シュテルンの言葉にブランシュは「ありがとう」と微笑む。
「どうせ魔法をいっぱい使ったんでしょ? 少しぐらい糖分多めに摂っても、今日の働きでチャラよ」
シュテルンは言いながら、注文を取るときに使う端末にメニューを打ち込んでいく。
ブランシュはまだ何も注文していない。
──まあ、ヴェルとノエルが来るからいいか。
シュテルンの厚意を頂戴することにしたブランシュは飲み物を注文することにした。
「シュテルン、紅茶を一つ。──あと、ノエルとヴェルが来るんだ」
ブランシュの注文を端末に入力したシュテルンは聞き慣れた二人の名前を聞いて微笑む。
「あら、二人が来るの? 重要な話?」
「いいや、全然。魔界の残滓討伐後にノエルが診てくれたらしいから、その話じゃないかな」
「──そうなの。…………分かったわ、二人の飲み物も出せるように準備しておくわね」
シュテルンはそう言って、ブランシュのテーブル席から離れて奥へと向かって歩いて行った。
丸型のテーブルの中心に飾られた桃色の花、花を飾っている花瓶の側には小さなぬいぐるみが置かれている。ブランシュはそれを見て、相変わらず可愛いものが好きなのかとこの店の店主のことを考える。無愛想で寡黙、可愛いものが好きな店主はデザートや飲み物に可愛さを追求する。
数十分後にはテーブルに可愛いデザートが乗っているだろうことは容易に想像出来た。
「…………」
独りなのでブランシュはどうしようかと考えた。お店の中、客がいるのに画面を起動して動画を流すわけにはいかない。
ならば音の出ないものを見て時間を潰そうと、ブランシュは画面を起動する。目の前に一瞬で現れた画面を見てブランシュは何を見ようかと考える。ニュースでも読もうかと、文章でまとめているとこに接続した。世界情勢などは一応、確認はしている。
だが、今のオルビスウェルトは大きな争いは無い。これほどに大きな争いもなく世の中が回っているのは不思議な気分だ。
勿論、不穏分子はあるのだが。
ブランシュがニュースを眺めている時間、およそ十五分ほどで店の扉につけられた小さなベルが来客を知らせる。
「ごめん〜! ブランシュ!」
店の扉が開かれ、店内に入ってきたのは二人の男女。女性は姉のブルーシアとよく似ている色の青い髪をポニーテールにしている。名前はノエル。
そのノエルの背後に立っているのは緑と銀が混ざった髪に赤のメッシュ、髪は長く後ろで一つに束ねている。瞳は青と赤のオッドアイであり、細いフレームのメガネをかけている。男性の名前はシュヴェート、ブランシュはヴェルと呼んでいる。
二人はブランシュが座るテーブル席に近づき、ノエルはブランシュの向かい側の席に座った。シュヴェートはテーブルの近くで後ろに腕をやって、姿勢は真っ直ぐにして立つ。
これは昔からのシュヴェートの癖でもあった。
「ヴェル、座りなよ……」
ブランシュはシュヴェートに顔を向けて言う。敬礼しないだけ、まだ対等で友人関係が築けているとは思うが……。
「……いえ、俺はここで」
堅物そうな雰囲気と無表情のシュヴェートはブランシュに断って、立つままを選ぶ。
ブランシュはノエルの隣の席を指で示す。
「だめだよ、はい、座って」
ブランシュの言葉にシュヴェートは眉を寄せる。
「俺にとってブランシュは尊敬している上官です。それは変わりませんので」
「は────……」
頑固め、とブランシュは深いため息を吐く。そんな三人のテーブル席に、シュテルンがデザートや飲み物をトレーに乗せて近づいてきた。
シュテルンはニコッと優しい笑顔を浮かべて。
「あ、ノエル、シュヴェートいらっしゃい。今日は私の奢りだからいっぱい食べてね? あら、シュヴェート立ったままじゃ疲れるわ。さ、座って座って」
シュテルンは運んできたデザートの数々をテーブルに置き、終わった後にシュヴェートへ振り返って言う。
だが、シュヴェートは静かに首を横に振った。
シュテルンは「あらあら」とにこやかな微笑みを浮かべて、シュヴェートの背後に回って両肩に手を置く。強引に押して、シュヴェートをノエルの席まで歩かせる。
「いっぱい食べてね? まだまだ持ってくるから」
ちょっと圧力を感じさせるシュテルンの笑顔にシュヴェートは押されて、渋々といった様子でノエルの隣の席に座った。
テーブルに置かれたデザートの数々に驚いているのか、ノエルは言葉なく置かれたデザートを凝視している。
「…………ブランシュ、あれ、シュテルン、まだ持ってくるって言ってなかった?」
ノエルはようやく口を開いてブランシュに訊く。訊かれたブランシュは頷き、ノエルは唖然とした。
シュテルンが運んできたのはワンホールのケーキと、可愛い器に盛られたプリンとフルーツ、生クリームの豪華なデザート。これでも、三人で食べれるかどうかなのにシュテルンはまだ持ってくる気だ。ノエルはスプーンを手にとる。
ワンホールのケーキの存在感が凄く視界に訴えてくるのだが、先ずはプリンを食べようとノエルは器を手にする。
「…………、美味しい〜!」
プリンをスプーンで掬って一口。ノエルは嬉々とした声を出す。この店の厨房に立っている店主は拘りが強く、プリンを作るにも材料をかなり吟味している。
…………あの、寡黙でよく農家に話つけられたなあ。
ブランシュはそう思いながらノエルが食べているプリンのデザートと同じもので別の器を手にして、スプーンでプリンを掬って食べる。
…………美味しい。
素直にそう思えた。こんなに美味しいデザートを食べるとついつい過去を思い出しそうになるが、今はデザートを楽しもう。
だが、シュテルンはまだ持ってくる気だ。
「美味しいけど、やっぱり量が多いなあ……。うーん、セイアとか呼ぼうかな」
眉を下げてブランシュは呟く。この量を三人で食べるには多いし、残すのはしたくない。
なら、救援を呼ぼう、とブランシュは画面を起動する。
画面を操作して、友人を呼び出す。
「────セイア、私なんだが」
────数十分後。
銀色の長い髪をきつくロール巻きしたお嬢様のような容姿の女性が店内に入って来た。星のような月のような、綺麗な金色の瞳を瞬き女性はブランシュ達のテーブルに近づいてきた。
彼女がセイアルウナ。皆からはセイアという愛称で呼ばれている。
セイアはとても可愛らしく、高貴さがある容姿の女性だが武術に長けている。今日も鍛練していたらしく、少し疲れを見せた顔で喜ぶ。
「お招き下さってありがとうございます、ブランシュ。素敵なデザートの数々ですね」
「隣へどうぞ、セイア」
ブランシュは自分の横に置かれた椅子を引く。セイアはブランシュに従って、引かれた椅子に腰を下ろす。テーブルに置かれたデザート達を見てセイアは嬉しそうな微笑みを浮かべる。
「フラムも呼べば良かったです」
「今日は一緒に鍛練してなかったの?」
セイアの口から出たフラムという名前にブランシュは反応する。フラム、という人物をブランシュもよく知っている。快活で元気な女性でセイアと一緒によく鍛練をし、自警団に所属している。
いつも、というわけではないが大体セイアとフラムは一緒にいるのでブランシュは気になって訊く。訊かれたセイアは微笑みを浮かべて答える。
「フラムは旅支度の準備をしています」
「…………旅支度」
え、それって……、とブランシュがセイアに問う前にセイアがブランシュに言う。
「ブルーシアさんから、聞いておりませんか?」
「詳細はあとで、って言われてるんだ」
ブランシュの言葉を聞き、セイアは「そうですか」とそれ以上は言わなかったのでブランシュはブルーシアの説明を後ほど、聞くことにしてデザートに集中する。
向かいのノエルは美味しそうにプリンのデザートを食べたあと、ケーキを食べ始めている。
シュヴェートはノエルが食べているケーキを横からフォークで掬って食べ、二人に視線をやった。そういえば、とブランシュはノエルに話しかけた。
「ノエル、治療ありがとう」
ブランシュに礼を言われたノエルはにっこり微笑む。
「ブランシュこそ、魔界の残滓討伐お疲れ様。無茶しないで、とは言えないけど今回も荒っぽい魔力運用だったんでしょ?」
ノエルの微笑みの意図が言葉で圧としてブランシュに伝わり、ブランシュは「う」と気まずそうな声を出した。
追装展開など、無茶な攻撃魔法を使ったのは事実なのでブランシュはノエルに何も言えない。
「…………ブランシュ、私……上手くは言えないけど、でも……、心配してる助けたいって思ってる。だから、大変な時は相談して欲しい。あなた、放っておいたら私に頼ってくれないでしょう?」
眉を下げてノエルは悲しそうな表情を浮かべる。ケーキを食べようとしていた動きを止めて、切り分けられたケーキが乗っていた取り皿にフォークを置く。ノエルは沈痛な表情でブランシュに言葉を伝えた。
それを受けてブランシュは顔を俯かせることも、目を逸らすこともなく、ノエルの言葉を真摯に受け止めた。
「心配させて、すまないノエル。いつも、助けてくれてありがとう」
ブランシュの言葉にノエルは大きな金色の瞳に涙を見せる。
『……俺たちは不器用だな』
過去の記憶で隊長が言っていた。本当に自分たちは不器用だと改めて思う。
「……次はちゃんと、頼るようにする」
ブランシュはノエルの目を見てはっきりと言った。
ノエルは涙ぐみ、自分の袖で目を拭った。隣に座っているシュヴェートがハンカチを懐から取り出して、ノエルに差し出す。
気がついたノエルはシュヴェートからハンカチを受け取って、自分の目を拭き、一言。
「…………絶対に、またやるもん」
ブランシュはノエルの言葉を聞き、心底ノエルに申し訳ない気持ちになった。
ノエルは言葉を続けた。
「でも、私諦めないから。何度だって、同じこと言うからね」
ぐすっと鼻を啜ってノエルは諦めない、と言ってくれた。
ブランシュは目を細めて、微笑む。
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