06.戦いが始まる

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06.戦いが始まる

●  謎の人物ミシェルを連れて、ブランシュは町の中を歩く。  町は不気味な静寂に包まれており、やはり外では町の人を見かけない、自分達以外の人影もない。生命反応はちらほら感知できるが、皆怯えているのだろうか……。  盗賊崩れとなった彼らが、町から逃げ出し、生きるために真っ当な生き方すら選べなくなったというのであるなら、事態の解決は早急でなければならないだろう。  …………しかし、何故だ。西の大陸はこの町を見捨てたのだろう。  ブラッディロードという種族は確かに強力な力を持っている。だが、西大陸は他の大陸にはない軍がある。その軍が今回の件を放置している意図は今のところ不明だ。 「ミシェルくん、疲れたら言ってね」 「──ああ、すまない。ブランシュ。旅をしていたから、体力に自信はあるのだが……」 「戦闘になれば、話は変わってくるよ。無理はしない方がいい」 「……ありがとう」  ミシェルは自分の前を歩くブランシュに感謝の言葉をかけた。自分の前を歩き、こちらにも気遣ってくれるブランシュ。  彼女の背中に視線を送って、ミシェルは目を細める。  …………正体を明かしていない俺にどうして、気遣ってくれるんだ……。  町の住民でもない、異物のような自分はブランシュから見れば怪しすぎる人物だろう。けれど、ブランシュは何も聞かずにミシェルを連れて行ってくれた。  ミシェルが町を支配しているブラッディロードの仲間や、ブランシュの敵の可能性だということも、考えている筈だ。 「……ミシェル、大変な時はブランシュだけでなく、プテに頼ってもいいの~。プテの身体、クッションにもなるよ!」 「……私が触りたいって言うと怒るくせに……」 「ミシェルは特別なの」  人程の大きさがあるプテはクッションにもなる。見た目も白くてふわふわしてそうなプテの身体をミシェルは眉を寄せ、険しい表情を浮かべながらプテに手を伸ばす。緊張感を滲ませた赤い瞳でプテを視界に入れつつ、ミシェルはプテの魅惑のボディに手の平をあてた。  ふわん。もふん。  効果音がこう鳴りそうだと幻聴を感じながら、ミシェルは驚愕に目を見開く。 「ふふふ」  プテが小さく笑う。どう?と言わんばかりの笑みだ。 「……こんな感触、初めて……。な……な……」  柔らかく、だが弾力もある。手全体から伝わる、もちもちふわふわのプテの身体。ミシェルは頬を僅かだが朱に染めて、小さな声で呟く。  今まで感じたことの無い、気持ちいいと思わせる感触だ。 「ミシェルはプテのことクッションにしてもいーよ! 疲れたら遠慮なく寄りかかってね!」  にこにこと笑顔でプテはミシェルに言う。ミシェルは少し戸惑ったが、プテの優しさに雰囲気が柔らかいものになる。 「……ありがとう、プテ」  ミシェルはプテに礼を言う。プテはにこにこと明るい笑顔を浮かべる。  二人の会話を先頭で聞いていたブランシュは穏やかな微笑みを浮かべていた。  気配に警戒しながら、ブランシュはミシェルとプテを連れて路を歩く。不気味な静寂に包まれた町に、確かな違和感をブランシュは感じている。  それは本来、穏やかに流れている町の空気に溶け込むことが出来ない血の香り。  …………そして、誰かの助けを求める悲しみの聲が思念のように──。  ブランシュは金色の目を細める。  そんなブランシュに向かって気配と三人程の足音が聞こえる。建物の陰から、意志を持ってブランシュ達に近づいているのを察知し、ブランシュは気配の方へと身体を向ける。  ミシェルとプテも気づいたらしく、ブランシュより数秒遅れて身構えた。 「…………、……あの、こんばんは」  建物の陰から現れたのは男性二人と女性一人。女性は花色のワンピースを着ており、お淑やかそうな印象を与える外見で、声を落としてブランシュに静かに挨拶してきた。  女性の背後には男性が二人。男性達は少し汚れた作業着を着ている。  声をかけられたブランシュは背筋を正し、女性に向かって挨拶を返す。 「こんばんは……、この町の方ですか……?」  ブランシュが問うと女性は静かに頷く。女性の顔には疲れが見え、暗く悲しそうな雰囲気を纏っている。外見からでは三人とも年齢の判別はつかないが、大人であることは確かだろう。ブランシュは三人を注視し、三人からは敵意を感じず、この町の人だろうと確信をする。 「……その、すみません。私独りでお話出来れば良かったのですが……」 「護衛を付けなければならない程に、この町は危険な状態にあるのですか?」 「……はい、ブラッディロードがどこに潜んでいるのやも、ブラッディロードの強力な能力で我々を監視しているのか分からないものでして」  女性の小さな声はブラッディロードから隠れて生活しているからか、頼りなく疲れを滲ませているものだ。そして、一般の人々にはブラッディロードの強い力は驚異なのだ。未知の力といっても過言ではない。だから、怯え、隠れ、助けを待つしかない。  …………けれど、西の大陸の軍はこの人達を助けようとしていない。  どういうつもりかは不明だ。ソルローアルのような閉鎖的でド田舎の町と違って、スペースという町は近代的であり、他の町との交流も国にも属していると見える。  その町がブラッディロードの襲撃を受ければ、他の町……国にも伝わる。軍も国も知っていて、放置しているのは何故なのか。 「……詳しい話が聞きたい。どこか話せる場所があれば、案内して欲しいのだけれど」 「──我々を信じて下さるのですか?」 「……半々かな。でも、君たちが嘘を吐いているのだとは思えない。そういう嗅覚はあると思ってるからね」 「…………、」  ブランシュの言葉に女性は堰を切ったように両目に涙を浮かべる。今にも泣きそうな彼女の様子にブランシュは追い詰められていたのだろうと同情した。  何もできず、自分の無力さを呪いながら助けを求め、隠れて生活するのはどれほど苦しいか。  ブランシュは女性の様子を見て、信じようと決めた。  もし、裏切られたとしても、その時は切り抜ける。それだけの技量がなければ、ここには来ていない。  三人に案内してもらおうとブランシュが更に一歩を踏み出そうとした時────。 「──おおっと、虫が飛び回っていると思えば、隠れてる虫もいたかよッ!」  女性の大声が聞こえた。威勢のいい声と共に、気配がブランシュ達と少し離れた場所に立つ三人へ向かって来る。  飛んでくる、とブランシュは気配を感じて迎え撃とうと前に出ようとしたが、それよりも速く弓矢がブランシュ達の方へいかせまいと威嚇で数本撃たれた。 「うわッ! 何だ?!」  気配はブランシュ達に近づけず、空中で止まる。尚も動こうとする気配に向かって、弓矢は再度撃たれる。  弓矢の追撃を受けてブランシュ達に近づけず、焦って声が上がる。その声の主は小柄でまだ子供のような姿をしている少女だが、敵意があるのは分かる。  ────フラン。  正確な弓矢の軌道。馴染み深い気配。フランとセイアがこちらの援護をしてくれている。  特に弓の攻撃はフランのものだろう。威嚇射撃で少女をこちらに近づけまいと撃ち込んでくれている。  …………今の内に。  ブランシュは敵を二人に任せて、ミシェルとプテ、この町の住民である三人を連れて避難場所へ行くことを選ぶ。 「今のうちに、安全な場所へ行きましょう! ……もし、安全な場所がないのなら、こちらで探します!」  ブランシュの言葉に三人は少女への怯えと恐怖で身体を震わせていたが、勇気を振り絞ったようで女性が声を出した。 「…………あちらに、避難シェルターへの路があります…………」 「では、そちらに行きましょう。敵は私の仲間が抑えますので」 「……は、はい……」  ブランシュはセイアとフランを信用して、他の皆と共に避難シェルターへ向かうために走った。  …………敵の気配がもう一つ増えた。まだ、二人でも抑えられる。  路を走りながらも、ブランシュは敵の気配を探る。セイアとフランが抑えてくれているが、敵意を持った気配がもう一つ増えた。  新手だろう。けれども、ブランシュは二人を信じる。 「──あの、あそこです!」  走りながら女性が指差す。女性が指で示した先にあるのはドアだった。オフィスビルの裏側にぽつんと設置されたドア。  ブランシュはドアの前に立つ。暗い色のドアでオフィスビルの裏口、という感じに見えるが……。  女性の護衛として来ていた男性の一人がドアの横に付けられた端末にパスワードを入力した後、自分のズボンポケットに手を入れる。すぐにポケットから鍵を出して、ドアのロックを解除し開けた。 「こちらです」  男性の言葉にブランシュは頷く。開けたドアの先は暗いが奥から敵意や、妙な気配を感じない。  複数の生命反応を感知出来たのでブランシュは安全と判断し、女性と男性に声をかける。 「三人はお先に行って下さい。私は警戒しながら行くので、最後に……。プテはミシェルくんを」 「……ぷきゅ! お任せ!」 「すまない、ブランシュ」  ブランシュの判断にプテは手を挙げて了承し、ミシェルは申し訳なさそうに目を伏せた。  走って遠ざかったとはいえ、攻撃の音は聞こえてくる。町の住民である人達に恐怖を与えてしまったことにブランシュは罪悪感を持った。  …………助けます。今は耐えて下さい。  ドアの先へと向かった三人と、ミシェルとプテを見届けたブランシュは気配に警戒しながらも、ドアを閉じた。  閉じれば自動的にロックがかかるようにしてあるらしく、音が鳴った。パスワード入力の近代式と鍵使用の旧式、両方の解除がなければドアは開かない仕組みだ。  男性が戻らなければ開かないように……。一瞬、男性が手にしていた鍵を見たが、どこのかぎなのか、番号すらも彫られていないものだった。  …………命懸けで来たのかも知れない。  ブランシュは思い、暗い廊下を歩く。 「ブランシュ……、」  先にドアを抜けて、中に入っていたミシェルがプテと共にブランシュを待っていた。  ミシェルは不安そうな眼差しをブランシュに向けている。外のことも気になるのだろうと、ブランシュは察した。 「ミシェルくん、外は大丈夫だよ。……私の仲間が戦っているから」 「仲間…………?」 「頼りになる仲間だよ。町への被害もないだろう」  ブランシュの言葉にミシェルは顔を俯かせる。まだ、何も明かしてくれないミシェルだが思うところがあるらしく、ミシェルは沈黙した。ブランシュは眉を下げて、ミシェルに声をかけた。 「──行こう、この町で起こっていることを知るためにも」  ●  ──ソルローアルの町、自警団の拠点にて。  自警団の仮眠室でブルーシアは衣服を着替える。上は白の長袖で、ゆったりとした首回りのオフタートルネック。その上に赤いワンピースを着る。スカートから覗く白い脚に黒の艶やかな生地のサイハイソックスに、白いブーツ。  ブルーシアは準備を整え、近くに座っている男性に声をかけた。 「──じゃあ、行ってくるわね。クリス」  一人用のソファに座って、長い脚を組んでいる男性……、クリスは笑みを浮かべる。 「俺も行かなくていいのか? お嬢」 「クリスには自警団を守ってもらわないと……。ロシェも来てくれるから、大丈夫よ」 「……また、お留守番ですかい」 「──貴方を動かすほどの事態ではないわよ。それこそ、問題だわね」  ブルーシアは長い髪を指先で払う。青い髪が煌めき、クリスはじっとそれを見つめた。 「…………何?」 「いや、お嬢の髪はいつも綺麗だと思って」 「……褒めても何も出ないわよ」 「もっと褒めたら、ご褒美くれる?」  クリスはにこっと笑みを浮かべて首を傾げる。ブルーシアは眉を寄せクリスに近づくと、クリスの形の良い鼻の頭を摘まむ。 「──いてっ!」 「……そうね、いいこにお留守番出来たらご褒美考えなくもないかな?」 「…………お嬢」 「帰ってくるまでには考えておくわね」  クリスは自分の前に立つブルーシアに視線を向ける。クリスの視界に映っているブルーシアは笑みを浮かべていた。  目は笑っていないが……。 「……お嬢のそういうとこ、ゾクゾクして好き」 「気持ちよくならないでよ……。私にそんな趣味はないからね」 「え────!」 「ほんと、黙ってれば美形なのに勿体ないわねえ……」  ブルーシアは大きな溜め息を吐く。  クリスの容姿はとても整っている。真紅の長い髪を後ろの高い位置で一つに髪を束ねており、毛先には少し金色が見える。両目は神秘的な金色でよく見るとオッドアイで不思議な色をしている。  ブルーシアの言う通り、クリスは黙っていれば整った容姿の持ち主だ。  性格はちゃらんぽらんだが。 「…………そういえば、お嬢。イルから連絡来た?」 「さあ……、最近は来てないわね。便りないことはいいこと、とも言うし……、元気ならそれでいいわよ」 「やっさし──! っていうか、お嬢はイルに優しすぎない? ヤキモチ焼いちゃうよ」 「────まあ、そうね。それは否定しないわ」  ブルーシアはさらっと流して、クリスの座るソファの横を歩く。クリスは唇を尖らせ、ブルーシアに言う。 「…………お嬢、気をつけてね」  クリスの言葉にブルーシアは応えず、ドアを開けて出ていった。  ドアが閉まる音を聞いてクリスは自分の額に手をあてた。 「……あ────、やっちまった……」  さらっとブルーシアは流していたが、クリスはやってしまったと後悔した。ブルーシアのあまり触れられたくない部分に触れてしまい、去り際のブルーシアはクリスへ怒りの感情は持っていなかった。  だが、ブルーシアの纏う気配の色がはっきり変わったのだ。哀しみのそれである。 「…………俺、何回繰り返してるんだろう。学習能力ないのかな……」  クリスの目に涙が滲む。嫉妬心から来る意地悪な気持ちが余計な言葉を出した。  それが生む結果をよく知っているくせにクリスは同じことを繰り返してしまう。  恋とは厄介な感情である。 「…………帰って来たお嬢に謝ろう」  クリスは独り呟いて、ソファから立ち上がる。  ブルーシアに自警団を任せられたのだ。役目を果たさなければ……。  ソルローアルの外、出来るだけ広い場所でブルーシアは移動魔法の準備をしていた。行ったことのない場所への転移は座標指定に時間がかかる。  ピッとやってパッと行けたらいいのだが、そう上手いことはいかない。文明の進歩で昔に比べたら座標指定はかなり楽になったが……。  画面を起動し、目標の町の旧式地図や立体式の地図を表示させる。 「…………」  無言で移動魔法の準備をするブルーシアのもとに一人の女性が近づいて来た。  その女性の気配をよく知っているブルーシアは何も言わない。  女性は華やかな微笑みを浮かべ、ブルーシアに声をかけた。 「ブルーシア、クリスさんと何かあったの?」 「…………ロシェ。…………イルの名前だされて、ちょっとしょげただけよ」 「あら────、クリスさんたら……」  ブルーシアにロシェと呼ばれた女性は頬に手をあてて、首を傾げる。  ロシェはピンクかかった金色のウェーブがかかった長い髪、金色混じりの赤い瞳を持っている。可愛らしさと頼れる女性の雰囲気を持っており、ブルーシアと比べれば柔らかく穏やかな女性だと印象を受ける。  服は胸元が開いている大胆なミルクティー色の上着で袖は長く、下は黒いロングスカートでタイトのものである。  画面から視線をロシェに変えたブルーシアはロシェに言う。 「動きにくそうな服装じゃない? 大丈夫?」 「平気よ、私は遠距離支援タイプだもの。それに、セイアとブルーシアが守ってくれるから」 「任せて」 「頼りにしてる~!」  どことなくふんわりとしたお姉さんのような印象を与えてくるロシェ。  ブルーシアはロシェとは長い付き合いであり、仲も良い。ロシェの戦闘での動きもよく知っているので、ブルーシアも連携が取りやすく動きやすい。 「シュテルンが私も行きたい! って、言ってたよ」  ロシェがにっこり微笑む。シュテルンとはソルローアルの町でカフェの店員をしている女性である。  ブルーシアはロシェの話に目を細めた。 「フレーチェとセレエルからも言われてるのよ。皆、戦いたいのか、ブランシュを助けたいのか……」 「両方じゃないかな……? 腕鈍るの嫌だと思う。私もそうだし……」 「世知辛い話よね。…………守るために力を持たないといけないなんて。世界中全てが聖人になったら、それはそれで問題だけども」 「永遠の問題よね……、それ」  ブルーシアのぼやきにロシェは苦笑する。ブルーシアが言う通り、いつの世であろうとも戦いは起きて人は争う。自分や自分の大切な者を戦いから守るためには力が必要なのだ。  人に意志がある限り、感情ある限り、生命というものがある限り、戦いも争いも起きる。  なら、平穏とは何か。  ブルーシアとて長く生きているが、正解には辿り着けない。  …………そもそも、正解なんてないのでしょうけど。  移動魔法の準備をしながら、ブルーシアはそんなことを考えた。 「……きっと、全てを救うなんて烏滸がましいのよね」  ブルーシアの呟きをしっかり拾っていたロシェは思ったことを声に出していた。 「優しいのよね、ブルーシアは……」 「────は?! べ、別に優しくないわよ!! 私は現実主義者よ!」 「…………そう? 私はすっごく、優しいと思うなあ……」 「冷血! とか陰口叩かれてたのよ?! 昔!」  顔を真っ赤にしてブルーシアはロシェに反論した。優しい、と評されるのはどうにもむず痒いのだ。  冷血、冷酷、と言われていた方が良いとさえ感じており、自分を優しいと理解してくる親友達には否定して来たのだが……。 「ふふ……素直じゃないんだから。こういうの、ツンデレって言うのかしらね~」 「どこで覚えてくるの……」  ふわふわした物言いのロシェにブルーシアは頭を抱えたくなった。  呆れた表情をするブルーシアに通信が入る。 『ブルーシア、──こちらフラン』  スペースという町に先遣隊としてブランシュと共に潜入しているフランからの通信をブルーシアは受け取る。 「聞こえているわ、フラン。どうしたの?」  ブルーシアは真剣な表情と落ち着いた声音で通信の向こうにいるフランに訊く。  通信からは大きな音も聞こえて来て、戦闘中だと推定出来る。 『現在、敵意のある者複数と戦闘してるわ。セイアも頑張ってくれてるのだけど、町に被害出ないように私が防衛魔法に集中してて防戦一方なの』 「…………敵の正体は? 推測だけでいいわ」 『ブラッディロードだと、思われるわ。目視で三人』 「了解。援護に向かうから、座標を頂戴」 『ありがとう』 「ブランシュは?」 『ブランシュは民間人の避難を優先してもらったわ。あと、さっき送った謎の人の目もあるから迂闊には動けないかも』 「あ──、そういえばピンク髪の…………」  セイアから送られて来た謎の人物の画像を思い出し、ブルーシアはブランシュの状況を察する。  これは仕方がないとブルーシアは画面を見る。メッセージアイコンが画面に表示され、指で押すと地図が画面に出る。  赤いポイントが地図に表示されフランの指定してきた座標だと理解したブルーシアは移動魔法の準備を早々に完了させる。 「ロシェ、通信聞いてたわね? いくわよ!」 「いつでもどんとこーい!」  ブルーシアの声にロシェは手を挙げて応える。  二人の足下に紋章陣が展開され、光が強く発せられ、ブルーシアとロシェを包むと再び光は強く放たれ、二人の姿は一瞬で消える。  ●  ──ブルーシアに通信を入れたフランは自分の周囲に複数の紋章陣を展開。弓を構えてセイアの援護をする。  町の建物にも被害を出さないように、周囲を防御魔法で保護しながらの援護だ。頭を常に働かせ、正確な弓での攻撃は気力を削っていく。 「────思った以上に、苦しい状況ね……」  守るものが多いということ、敵にそれがないこと。その違いだけで、フランの力が敵に勝っていても苦しい戦況になる。  ────だからといって、諦めるのは違う。  弓の弦を振り絞り、フランは軌道と狙いの動きを予測して矢を撃つ。  矢はフランの魔力で作られているため、狙いに向かう途中で複数に別れる。別れた矢は狙った位置へ撃ち込まれる。  今はセイアの動きを邪魔せず、敵の妨害が出来れば充分だ。 「…………はあ、はあ…………」  魔力よりも体力と気力の消費が激しく、フランは荒い呼吸を繰り返す。  防御と妨害に頭を使っていたフランは意識が疎かになり、油断していた。 「取った────!」  声と共に、フランの背後に敵が現れたのだ。
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