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00.白い月の魔女
●
淀んだ曇り空。草木は燃えて朽ち、辺りは焼け野原となり、自分の戦装束は血で濡れていた。
雨が降ってくれないかと思うほどに、一面の気は暗く鬱々としている。
怒り、憎しみ、悲しみ。沢山の命の声が聞こえる。多くの命を吸った自分の剣の柄を強く握り締める。空を睨み付けるように見上げた。
『…………ブラン』
名前を呼ばれて、空を見るのをやめた。自分の名前を呼んだ人へ顔と視線を向ける。大きな石の上に剣を置き、腰を下ろして彼は疲れを滲ませてた表情をしていた。あちこち血に濡れ、着ている戦装束も血で濡れていた。
『……隊長、俺は……』
声が震える。言いたいことは山ほどある。
けれど、状況と彼の……、隊長の判断がその時間をくれなかった。
『ブラン、頼みがある……』
言葉の後に、はあ……、と隊長は深く息を吐いた。隊長は横に置いていた剣の柄を手に握り、ゆっくりと立ちあがる。
ここまでに自分も隊長も随分と疲弊した。戦いばかりで気持ちがずっと、沈んだままだ。
…………隊長。俺達はきっと許されることはないでしょう。
どこまでも罪を背負って、決して許しなど望んではならない。
『…………俺の代わりに世界を見てきてくれ』
隊長の静かで、低い声で紡がれた言葉に自分は驚いた。心拍数が上がって、手が小刻みに震える。
…………何で。
どうして、その言葉を自分に言うのか。目が熱くなって、感情が爆発しそうになる。これは怒りではない。……哀しみだ。
『隊長……!』
『……これは、俺の最後の命令だ。ブラン』
──背負わせて、くれないのですか?
すぐに言葉を返したかった。けれど、出来ずに。あの時の自分は鬱々とした沈んだ感情と、己の罪を背負いきれていなかったのかも知れない。
草木が燃え朽ちた、戦場の痕が残る大地。陰鬱な曇り空の下、罪を抱えて旅立つ。
血濡れの隊長を置いて……。
●
──現在。
緑色の髪、金色の瞳の持ち主。名前はブランシュといい、彼女は西大陸と呼ばれる大きな大地の上に立っていた。緑色の髪の左前髪は長く、巻き貝に似ている形に巻いている。金色の瞳は大きく、顔立ちは愛嬌を感じさせるものだ。服装はシンプルで長い袖に少し大き目な上着に暗めの色の長ズボン。腰にベルトを巻き、小さい鞄を付けている。
背筋を伸ばして、両腕を空に向かって上げる。気持ちよく晴れた空の下、心地よい風に吹かれて声を出した。
「んん────! 気持ちいい────!」
よく生えた若葉色の草原、風に吹かれて飛ぶ花びら。何気ない風景なのかも知れないが、とても綺麗だと感じる。
どこへ行こうか?
何をしようかな?
色々と考えたいが、先ずは小腹が空いたと腹が訴えてきたので、朝食にしようとブランシュは思った。
「お腹空いたら、力出ないもんね!」
誰かの同意も特にないのが寂しいが、ブランシュはいつも行ってるパン屋に向かおうと足を動かす。つい癖で木の上で昼寝をしていたが、おかげで頭は冴えているような気がする。これで小腹が満たされたら、もっと頭が冴える気がする。
少し距離は離れてしまったが、いつもの町に行こうと思った。
「ん?」
見晴らしの良い草原。町の出入り口の門が見える、更には整備された道も見える。ブランシュがいるのはちょっと町の門から出た整備されていない草原で、見晴らしがいいのでよく見える。町と自分がいる草原の中間で配送業者が何やら数人に囲まれて困っているようだった。
文明が発達していても田舎の町はそこまで便利な設備があるわけではなく……。特に山に囲まれた田舎町は配送だって機械任せではなく、人力が多い。
ブランシュは眉を細めた。どんな時代になっても不届きものは湧いて出てくるものだ。
……魔法使えばいっか。
配送業者に絡む数人を放っておくわけにはいかない。ブランシュは靴の爪先で軽く地面を叩く。
視界で見えるこの距離ならそこまで魔力を消費することも、構築に時間を取られることもない。
「何だっ!? やめろ!」
大きな荷物を車輪が付いた荷台に乗せている中年の男性が声を上げる。男性と荷物を囲むように、複数の大柄な男達が刃物を手にして立っている。
すぐ近くの町で荷物の配送をし、その後町から出て、整備された道を数十分ほどゆっくり歩いていたらこれだ。
「荷物と、持ってる金を寄越せっ!」
柄の悪い男達の中の一人が、荷物の傍にいる男性に告げる。男達の手に握られた刃物が銀の光を放つ。
「……! そんな武器で脅されても、荷物も金も渡せん!」
荷物を運ぶ職業柄、危険は当たり前。男性も刃物と怒声による脅迫に負けじと吠えるが、男達は複数であることに余裕を持っており、下劣な笑みを浮かべている。
生活と命がかかっている緊迫している状況。男性は眉を寄せ、切り抜けようと頭を働かせる。
──が、男達の一人が突然吹っ飛んだ。
「いち……、に……、三四、五六七……八、」
飛び蹴りからの地面への綺麗な着地。荷物を運ぶ男性の窮地を救ったのは長身の女性。緑色の髪、髪の先が僅かに金のような色に変化している。左の前髪だけ長く、巻き貝のような巻き毛をしており、瞳は金色。
そう、彼女はブランシュ。
ブランシュは立ち、荷物を運んでいる配送業者の男性に笑顔を見せた。
「おじさん、ごめんね~? この辺に野蛮な連中が生えて来ちゃって」
「き……君は……?」
「……私はソルローアルに住んでいる自警団……っていうのかな? それの一員なんだよ~」
ブランシュは配送業者の男性に答えたあと、すぐに男達の一人を真っ正直から殴り飛ばした。
ソルローアルというのは配送業者の男性が先ほどまでいた辺境にある町。山に囲まれ、自然に恵まれているのどかな町だ。
「あと七人。……まったく、何でこんな辺境に盗賊まがいの輩がいるのやら」
ブランシュは自分の頬を指先で掻く。こういうのから町を守るために自警団がいるわけなのだが。呆れ気味に、ブランシュは深々とため息を吐く。
この周囲は自警団が定期的に見回っているのだが……。
「ま、細かいことは気にしないでおこう。私の分野でもないし……。盗賊まがいになって、この辺りを根城にした以上は痛い目にあってもらわないとね」
ブランシュは戸惑う男達を置いて呟くと、軽く三回ほどジャンプし、地面を蹴る。空を切る音が刹那。
すぐに男達の三人が地面に転がった。
ブランシュは僅かに動いたのみで、男達の一人が持っていた刃物の柄を手にして投げた。その投げた刃物が立っていた男の頬を掠める。
「ひっ……!」
男は頬を押さえて短い悲鳴を上げる。腰が抜けたのか男は地面に尻餅をつき、恐ろしいものでも見たような視線をブランシュに向けた。
その視線を受けてブランシュは不思議そうな顔をした後に、男達を見た。
…………もしかして、素人?
手慣れた感じはしない。そして、武術に長けている様子も特にない。体格だけの連中にブランシュは眉を寄せる。
「…………はあ。これも隊長の教えのおかげかなあ……」
ブランシュは再び大きなため息を吐いた。
──先ずは制圧かな。
残り三人。ブランシュは立っている三人を視界に入れて、跳ぶ。ブランシュの速さは素人の目にはとても捉えることが出来ない。
あっという間に三人、それぞれ地面に転がり情けない姿を晒す。配送業者の荷物と金を取ろうと、男性を囲った男達は皆、戦意を失った。
ブランシュは男達が持っていた武器と思われる物を全て魔力をぶつけて破壊、地面に転がった者も腰を抜かしている者も拘束魔法で縛っておく。
「…………助かったよ。ありがとう」
配送業者の男性がブランシュに礼を言う。男性の言葉にブランシュは笑顔を浮かべる。
「いえいえ、お怪我は?」
「大丈夫だ」
「それは良かった」
「……最近は物騒だね。この間は少人数だが、囲まれてしまって……その時も助けてもらったんだが」
「この間……、それは物騒だね」
「前に助けてくれたのはピンク色の髪の美人さんでね。旅をしている、と言ってたかな。……ああ、もう行かないと。ありがとう、お姉さん」
「……いえいえ、またソルローアルに来て下さいよ」
「はいよ、また荷物持って来るよー」
互いに笑顔を浮かべて手を振って別れる。業者の男性は荷車を引いて整備された道を歩いていく。男性は時々、振り返って手を振って来るのでブランシュも手を振り返した。
男性の姿が見えなくなった頃にブランシュは通信画面を起動する。
ぱっとブランシュの前に四角い画面が現れる。
「ブルーシア、配送の荷車を襲った連中を捕まえたんだけど……」
ブランシュが画面に向かって伝えると、画面の向こうから声が返って来た。
『──この辺境にそんなチンピラが巣を作ってるの?』
画面から聞こえてきたのは女性の声。ブランシュがよく知っている声と、彼女らしい言葉にブランシュは安心しつつも苦笑する。
落ち着いてはいるがブルーシアの声から感じるに機嫌は下がっている。
「どうしようか? 町に連れて行ってもいい?」
『──ええ。連行してもらって、檻に一回ぶちこんで事情聴取をするわ』
「…………、わかった! 連行するからよろしくね!」
ブルーシア、ちょっと怒ると怖いけど……と、ブランシュは思ったが現在も地面に転がっている男達には耐えてもらおう。
ブルーシアとの通信を終えたブランシュは拘束魔法によって動けず、地面に転がっている男達を見回す。
男達は諦めているのか大人しい。大人しくしてくれているならやりやすいとブランシュは指を動かす。拘束魔法は光の鎖といって、魔力で鎖の形にし対象を行動不能にする。
ブランシュは鎖の束を手に握る。その鎖の一本一本を辿れば地面の上に転がっている男達。ブランシュはにっこり笑って、男達を残らず町へ引き摺っていく。
町の入口とは距離があるので途中で移動魔法を使おうと思ったが、ブランシュはたまには鍛えようと数十分ほど歩いた。
後ろから悲鳴があったが、ブランシュは無視をした。
「いででででででっ!」
「血も涙もないのかっ!」
「服が……! 服が破れるうううううっ!!」
ずりずりずり、と音をさせながら男達は地面の小石に時折肌や服をぶつけて、なす術もなくブランシュに連行された。
●
「──っていうことがあってね。起き抜けから、運動するはめになって小腹だったのに、かなりお腹空いちゃったよ」
ブランシュは言い終わったあとに大きなパンにかぶりつく。両手よりも大きく、食べるとミルクの風味がする。ふわふわもちもちで美味しい。ジャムをつけなくても全然食べられる四角いパンだ。
ブランシュはパン屋店内の飲食スペースの一つ、小さな席に腰をかけていた。
美味しそうにパンを食べるブランシュのテーブルにカップが置かれた。
「……いつも外で寝てたりするのって、見張ってるから?」
「……まあ、私も自警団の一員だからね」
カップに注がれているのはミルクティーだ。ブランシュの好む味に調整されている。
作ったのはこのパン屋の看板娘アイネ。金色の美しい長い髪を後ろで二つに分けてリボンで纏めている。瞳は金色と赤色の左右非対称で珍しい色をしている。
「アイネ、よその連中来ているから、最低限……目の色は変えるんだよ」
ブランシュは言って、正面に視線をやる。主に木材で造られた年季の入っているパン屋。
ここも、この町もブランシュには大切な場所だ。
「……ブランシュ……、うん、分かった」
アイネは眉を下げて少し悲しそうな表情をする。ブランシュが自分を思って言ってることはアイネはよく知っている。
「ま──、ブルーシアにこってり事情聴取されているから、この辺りをうろちょろすることはあまりないと思いたいけどね」
「ブルーシアに……。セイアじゃダメなの?」
「優しすぎてダメだって」
ブランシュは四角いパンを食べ終わってしまい、まだお腹が物足りないと細い棒のような形のパンを一本手に取る。パンの先にはチョコレートがコーティングされており、見映えもよく美味しそうだ。
アイネは深々と溜め息を吐く。パン屋の優しい看板娘は見たこともない男達を心配しているのだろう。
ブランシュは手にしたパンを食べる。
……本当に何で、この辺りに……。
西の大陸の端の方の辺境で、ここから次の町に行くには走行の乗り物や移動魔法が必要だ。一応、次の町に行くために駅があるが三日に一本。
とても不便な田舎に引っ込んで何の得があるのやら。ブランシュはカップに入ったミルクティーを一口飲む。
「ブランシュちゃ──ん」
パン屋の奥から店主が出てきた。昔からよく知っている店主はブランシュのもとへと歩いて来た。
店主はアイネと同じ金色の髪で後ろで一つに纏めている。左の目は眼帯を着けており、右目は金色。体格もがっしりとしており、頼りになりそうな中年の男性だ。
パンを作っていたらしく、店主は両腕に手袋を着けている。
「お父さん」
アイネとパン屋の店主は親子である。アイネは父親である店主に声をかけた。店主は娘にニコッと微笑みを浮かべたあと、ブランシュに言う。
「今、裏山の畑から帰って来たものが魔界の残滓を見たらしく、慌てて自警団のとこに駆け込んで来たんだ」
「魔界の残滓……! 今日は対処出来る人いなかったのね……」
店主の話の次にアイネが困ったように呟く。
ブランシュはカップをテーブルに置いて、腰の鞄から財布を取り出す。
「店主、ご馳走さま。裏山ってどっち?」
「野菜育ててる方山だよ」
「分かった。行ってくる」
ブランシュはパンと飲み物の料金をテーブルに置いて、いつもの笑顔を二人に見せて椅子から立ち上がる。
歩くと木材で造られた床が軋みの音をあげる。
ブランシュはあっという間にパン屋の出入口のドアを開けて、外へと出た。
…………裏山か。作物とか命に被害出る前に討伐しないとねえ。
ブランシュは魔法を使うかと構築を始めた時。
「ブランシュ!」
パン屋の出入口のドアを開けて、アイネが飛び出して来た。
「私も行く!」
「アイネ……」
「大丈夫! やれるよ!」
アイネは腕を上げ、拳を握ってブランシュにやる気を見せる。ブランシュは苦笑し、移動魔法を発動する。
「じゃあ、いくよ。アイネ」
「うん!」
白銀の紋章陣がブランシュとアイネの足下に現れる。二人の姿は紋章陣から発せられた光とともに消える。
ブランシュとアイネが消えたあと、小柄な少女が家屋と家屋の間から出て来た。少女は片手に棒つき飴を持っている。
ブランシュの緑色の髪と同じ色の髪と金色の目。髪型もよく似ている。
「お姉ちゃん、相棒忘れてるじゃん」
少女は手に持っている飴を舐める。少女の横に浮いている不思議な生物が涙を流す。
「ブランシュ~! うわ~ん!」
白くてもちもちしていそうな身体と手足。少女と同じぐらいの身長で、先が二つに別れた帽子を被っている不思議な生物はわんわんと泣く。
主であるブランシュに置いていかれた哀しみから、どんどん涙が出てくる。
そんな白くてもちもちの身体の生物を撫でて少女は眉を下げる。
「大丈夫。お姉ちゃんのとこまで送ってあげるから」
「……アルル~!! ありがとう~!」
不思議な生物は金色の目から涙を流しながらも、目の下を朱に染めて少女に礼を言った。
●
草木が生い茂り、日の光が僅かに届いているほど。野菜を育てている畑の近くを座標にしてブランシュはアイネと共に移動魔法で転移してきた。
白銀の大きな光の中から二人は出てきた。
「……ふう」
アイネが息を吐く。移動系の魔法は少し身体に負担があるのだ。
横を見れば、生い茂る草の向こうで木が伐採され、草が刈られた状態の広大な畑がある。町の皆が頑張って育てている野菜達の畑。
「作物は荒らされてないみたいね」
アイネは遠目からでも見えた畑の様子を見て安堵する。
「──一応、畑から下って町への道にセンサーを仕掛けてはいるけど」
畑は山の中腹に作ってある。山そのものがそれほど高くないので中腹までの距離は歩いて数時間ほどだ。
この山は町の長に権利があるが、皆の生活のためにと長が貸し出してくれている。
畑は町の命でもある。荒らされる前に魔界の残滓を討伐しなくては……。
「──ねえ、ブランシュ」
「ん?」
「魔界の残滓って魔界の生物なんだよね? でも、魔界の欠片とは違う。残滓は生物……って聞いたことあったんだけど」
「……そう、確かに生物としての条件は魔界の欠片よりもある。けれど、殺戮衝動や破壊衝動がある以上は対応しなければいけない」
「……うん」
「行こう、アイネ。町に降りる前に対応しよう」
ブランシュがアイネに言えば、アイネもしっかり頷く。如何なる理由があれど生物の命を奪うということに責任を持ち、向き合わねばならない。
そこに綺麗事は存在感しないのだ。
長く生えた草をかき分けて、二人は進む。魔界の残滓はある程度、気配で追える。
ブランシュは山の中に感じる異質な気配を追って歩みを進め、アイネはブランシュの後について歩く。
ブランシュの背中を見ながらアイネは昔を思い出す。昔のブランシュはもっと大きな背中で、いつも悲しそうな目をしていた。
……少しは癒えたのかな。
アイネが触れられないブランシュの心の傷。全部癒えたなんて思ってないけど、出来ることなら少しずつ癒えて欲しい。
「ブランシュ」
「ん?」
「──お父さんのパン、いつも食べてくれてありがとう」
「…………、美味しいから、食べるんだよ」
アイネの言葉の真意に気づいたらしく、ブランシュは笑みを含ませた答えをアイネに言った。
「いつも、ブランシュが美味しいって言ってくれるから、お父さん元気出してパン作れるの。覚えてる? お父さんのパン、一番最初に美味しいって言ってくれたの、ブランシュだった」
「あれ、私が初めてだったの?」
「──うん。だって、あの時のお父さんのパン、正直美味しくなかったもん」
娘は正直だなあ、とブランシュは思った。
昔の話だが、アイネにもブランシュにも大切な思い出。あの時食べたパンは黒焦げが所々にあって、中も何とも言えない半生状態だったが……。
…………でも、彼の勇気出しての一歩は美味しいと感じさせてくれたんだよな。
ブランシュは懐かしい記憶を思い出した。
だが、歩みを進めている以上、懐かしさばかりに浸ってはいられない。
「…………! アイネ!」
「うん、私も感じる!」
魔界の残滓の気配を二人は感じて、一時立ち止まる。
……近い。
ブランシュはアイネに視線を向けた。
「私が突撃するから、アイネは援護をお願い」
「ブランシュ……」
「大丈夫、白月の魔女の長子だからね。魔界関係の相手はいつものように任せて」
「……うん!」
アイネはしっかりと頷く。アイネの反応にブランシュはいつもの笑顔を見せた後、真剣な眼差しで気配がする方に視線をやった。
ブランシュは軽く地面を蹴って跳ぶ。ひゅっ、と空を切るように真っ直ぐに気配がする方へ。
草を分け、木々を抜けてブランシュは魔界の残滓のもとへと。
跳んだ先にいたのは異形の姿をした魔界の残滓と言われる生物だ。ブランシュは金色の瞳にその姿を映して、眉を寄せた。
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