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月に一度の逢瀬
「……来たよー。元気にしてる?」
また、この日がやってきた。
月に一度の、世界で一番愛しているひととの逢瀬。
春の暖かく爽やかな風が、愛しいひとの髪をなびかせる。
「今年の春は暖かいね」
そう言いながら彼は地面に座った。俺も隣に座る。彼の顔を覗き込むと、彼は地面に生えた小さな花を摘んで、クルクルと指で回した。
「また会えてよかった。……毎月会ってるけど、そう思わずにはいられなくて」
俺は呟く。すると彼は苦笑した。その目が、少し潤んでいたのは気のせいだと思いたい。
「俺はずっと……ずっと好きだったんだよ」
毎月、ここで会う度に伝える言葉。けれど視線は合わない。少しの沈黙ののち、彼は静かにはらはらと涙を落とし始めた。
「どうして……」
彼の涙は地面に落ちて、石畳を濡らしていく。俺もつられて涙を流した。だって、彼の流す涙は世界一うつくしいから。
「伝えようと思った時にはいないんだよ……っ」
「ごめん……ごめんな……」
堰を切ったように泣き出す彼の背中を、俺は撫でる。けれど彼は三角座りをして、顔を伏せてしまった。嗚咽が聞こえてきて、俺は堪らず彼を抱きしめる。けれど彼の涙は止まらない。
「僕があの時、酷いことを言わなければこんなことには……!」
「違う、お前のせいじゃない」
「好きだった……好きだったのに……!」
「俺だって好きだ……!」
俺は叫ぶ。でも俺の声は、彼に届くことはない。もう、この腕に抱きしめることも、笑った唇に触れることすらできない。
もう俺を想って泣かないでとも、伝えられないのだ。
でも、それでも俺は伝え続ける。笑って欲しい、君が好きだ。彼の肩を抱いて、彼に顔を上げて欲しいと願う。
──彼に、俺の分まで生きて欲しいと願う。
「……っ」
すると、彼が顔を上げた。何かを感じたように視線を泳がせそして、俺と目が合った。
「あ……」
驚いたような彼の顔。俺はやっと合った視線にまた目頭が熱くなる。
彼が顔をくしゃくしゃにした。そして彼の目から涙がボロボロ出てくる。その頭を、俺は引き寄せた。
触れないけど、彼は俺に合わせて寄りかかり、俺の胸元辺りで声を上げて泣く。ああ、かわいい顔が台無しだ、と俺も泣きながら笑う。
「……会いたかった!」
彼の嬉しそうな声が、仇野に響いた。
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