シュレーディンガーの卵

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流石に二度もそんな特殊な事が起こるわけがない。そう心の中で自分を元気づけて卵を割る。今度こそ黄色い!この満月のような黄色と球状のフォルムはまさに…! 「…ピンポン玉だ」 白身にまみれたそれは黄身ではなく、どう見てもピンポン玉だった。だってほら、突いたら転がって床を跳ねているもの。寝ぼけているのだろうか。それともこれは悪夢なのだろうか。卵かけご飯がどうしようもなく食べたいときに卵から黄身以外の物しか出ないなんて拷問だ。なんてひどい拷問なんだ。震える腕で、三度私は卵パックに手を伸ばす。 「三度目の正直、三度目の正直、三度目の正直」 そう私は自分に言い聞かせながら三つ目の卵にひびを入れる。しかし今後は白身すら出てこない。丁寧に殻を剥いていくと、中には新たな卵が入っていた。私は中から出てきた卵にひびを入れる。また白身は出ない。剝いてみるとまた卵が出てきた。 「…」 それでも私はめげずに中から出ててきた卵を割る。卵が出る、割る、卵が出る、割る。割れる度に小さくなっていく卵に小さな希望と絶望を同時に抱きつつ、せめて白身だけでも出てくれと祈っていた。しかし最終的に私の目に映った光景は、食卓に散乱する無数の卵の殻の破片だけだった。二度あることは三度ある。そんな言葉が頭をシャトルランしている。
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