シュレーディンガーの卵

5/9
前へ
/9ページ
次へ
「うわぁ…汚い。なんだ、空き巣でも来たのか」 改めてみると家の中は悲惨なありさまだった。白身で至る所がぬるぬるしているし、卵の殻は散乱しているし、爆弾の煤の跡も残っている。それでも一番酷いのは、やはり食卓だった。 「私は…ただ卵かけご飯が食べたかったんだ」 ぼそりと呟く。 「…は?」 「私は!卵かけご飯が!食べたかっただけなのに!卵から一向に黄身が出てくれないんだよ!見てみろよこの光景を!意味わかんないよピンク色でイチゴの匂いがする黄身とかピンポン玉とかマトリョーシカとか爆弾とか!」 我慢しきれなくなった私はついに怒鳴り散らし始めてしまった。友人はぽかんと口を開けながら私を見つめている。だが私のこの鬱屈した精神状態は落ち着くという事をさせてくれず、そのまま怒りを吐き出し続けた。 「何言ってんだお前って顔してるな、友人よ。そりゃそうよ、私だって分かんないよ!でも本当に黄身が出ないんだ!ほら、そっちはタピオカだ。それは飴玉。そしてこっちはビー玉だ。…キミじゃないんだ!」 私は泣き崩れた。大人になって久々に人前で号泣した。滅茶苦茶に恥ずかしかった。友人は戸惑いつつも、泣き止むまで背中をさすって私を慰めてくれていた。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加