最も幸福なウラノス

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「まったく俺の奥さんは、いつになっても口の悪さが直らないな」 「奥さんじゃねぇよ! お前がそんなふうだから、みんながそういう扱いするんだろうが!」  カリカリとするスピカの裾を、澄まし顔をした少女が引っ張った。 「おこるのダメよ、。おしょとに出たら、もっとジョーヒンなおくちでおしゃべりしゅるの。タミにちタワレルにはコーゾクのフルマイがヒツヨーなんでしゅよ」 「アナスタシアはどこでそんな言葉を覚えたんだよ」  スピカは少女の頭を撫でながら、呆れたようにため息を吐く。 「カテーキョーシのしぇんしぇい。アナしゅタシアはユーシューなセーテーになれるって、オホメイタダクましゅ。ゴアイサツしましゅ。『ミナしゃマ、ゴキゲンヨウ。ホンジちゅモ、オちゅトメゴクロウしゃマでしゅ』」  アナスタシアはスカートの裾をつまみ、常緑官らに向かってちょんと膝を曲げた。そのおませで頼もしい姿に、彼女たちの険しい目つきもとろりと下がる。  まさに小さな正帝アナスタシアといったこの少女は、何とあのときに、子どもだった。  生殖能力がないと思われていたシリウスの子を男であるはずのスピカが身籠ったのは、まさに奇跡か神の気まぐれかとしか言いようがなかった。あるいは、スピカがアスタリオンであったためか。  世界が形を変えると同時に、スピカの身体も形を変えてしまったようだった。  アナスタシアを産んだ翌年、ふたり目の妊娠が発覚、さらに何と先日三度目の妊娠が発覚した。  妊娠も出産もこれ以上はこりごりだと毎回文句を言うスピカに対し、シリウスはいたって呑気なものだった。「家族は多ければ多いほどいい」と口癖のように言う。  家庭の温かみを知らなかったシリウスが、家族が増えるたびに大喜びをする。やはりそんな姿を見るのは嬉しいもので、スピカも産める限りは付き合ってやるかと腹を括っているところがある。
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