最も幸福なウラノス

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「……ちょっと待ちなさい。まだ街から出てないだろ」 「街から出れば何してもいいの?」  にやりと自分を見上げるスピカにシリウスは参ったなという顔をする。 「……いつからそんな悪い子になったんだ」 「最初から素行はよくないだろ」 「確かに初めて会ったとき、お前は俺を殺そうとしたからな」  肩を震わせてシリウスが笑う。つられてスピカも笑った。  皇都の街並みを抜けると、窓の外に一面の田園風景が広がった。地平線まで続く青々とした麦畑。遠くに連なる山並みは芽吹きはじめた木々の淡い緑に霞んでいる。  スピカは窓を開け、新緑と大地の香りを胸いっぱいに吸い込んだ。 「この国は、シリウスみたいな匂いがする」 「それはどんな匂いなんだ。臭いわけじゃないよな?」  その問いに、スピカは星が弾けるように笑う。 「何だ、泥臭いか?」  シリウスはふざけるように自分の服の匂いを嗅ぐ仕草をした。 「ばぁか、臭くないってば。そう言えば最初に、そんなふうに思ったなって思い出してさ」 「最初って、いつだ?」 「内緒」  出会ったその日にシリウスの布団の匂いを嗅いだなんて、絶対に教えてやらない。 「お前は俺に秘密を作る気か」  シリウスはスピカを背中から抱き寄せ、身体をくすぐった。ふたりの笑い声が狭い馬車の室内に響く。  以前よりシリウスがよく笑うようになったとみんなから言われる。それはきっとスピカがそばにいるお陰だと。そう言われると少し照れ臭く、誇らしく、シリウスをちゃんと幸せにしてやれているんだと自信が芽生える。  シリウスの掌が少し膨らみはじめたスピカの腹部を大事そうに撫でた。
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