天と地の星

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天と地の星

 (ひらめ)く刃の軌跡の向こうに、雪白の翼が羽ばたいた。  その小柄な身体では扱いきれない大剣をがむしゃらに振り回し、自分に挑みかかる銀の髪の少年。  肌は透き通るほどに白く、瞳は夜空を映したような濃藍。整った顔立ちは一見すると女か男かわからないが、彼らの大半が男として生まれることを誰もが知っている。その始祖たる神が男神であるからだ。  華奢な背中には、自分自身を覆い隠せるほどの大きな翼が生えていた。  ――天空の浮島を住処とする種族、ウラノスの民。 「そのくらいにしておいたらどうだ。そろそろ息が切れただろう」  シリウスは右手に構えた大剣で少年の剣戟(けんげき)を軽くかわしながら、熱のない声で笑った。だが少年はシリウスの腰の高さほどで浮き上がったまま、大剣を振り下ろし続ける。 「うるせェよ、この大男! ガイアの『犬』が!」  少年の放った『犬』という言葉に、シリウスの黒い眉がぴくりと動いた。  たしかに天空で最大の輝きを持つシリウスという星には、『猟犬』という意味があった。五十年の永きにおいて正統ガイア帝国の頂点に君臨する正帝アナスタシアが、自らの末子に与えた名である。  ――皇位を継げぬこの息子は、生涯我が『猟犬』であれ、と。  真上から振り下ろされた剣をひらりとかわす。勢い余った少年は大剣の重みを支えられず、空中でバランスを崩した。シリウスはその細い首根っこを鷲掴みにし、地面の上に押さえつけた。
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