天と地の星

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 足元には、膝が埋もれるほどの雪が降り積もっている。まだ柔らかな雪の下には、溶けることのない雪が押し固められた分厚い氷の層があった。  シリウスは生まれてこのかた、この国の地面を見たことがない。積み重なり続ける氷の層が、この国を白の破滅へと追いやろうとしている。  首根っこを掴まれうつ伏せに押さえつけられた少年は、冷たい雪の中でじたばたともがいていた。それでも右手に掴んだ大剣は離さない。 (ウラノスにしては、なかなか根性があるようだな)  革製のブーツの踵が、少年の薄い手の甲を踏みつける。少年は(うめ)き、思わず剣の柄から指を離した。その一瞬の隙に、シリウスはそれを遠くへと蹴り上げた。 「だからそれくらいにしておけと言ったんだ。俺を怒らせるからこんなことになる」  羽の付け根のあいだを膝頭で押さえつけ、片腕を背中側にねじり上げる。その痛みに少年は高い悲鳴を上げた。 「ああクソがぁっ! テメエらみてぇな悪党は国ごと氷漬けになっちまえよ!」  手負いの白鳥のように少年の両翼がバタバタともがく。それに煽られ、雪の結晶と羽毛があたりに舞い上がった。 「可愛い顔をしている割にはずいぶんと口が悪い。それほど元気なら遠慮なく痛めつけてやろうか」  シリウスはそう言い、ねじり上げた少年の腕の角度を深めた。途端、涙まじりの絶叫が雪に埋もれた皇宮の中庭に響き渡った。  少年の叫び声を聞きつけたのだろう、太い列柱の奥から数名の兵士が慌ただしく駆けつける。
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