天と地の星

4/30
前へ
/170ページ
次へ
 シリウスは少年を抱えたまま犬ぞりに乗り、ガイア皇宮の敷地の外れにある自分の屋敷に足を向けた。アナスタシア宮の裏門を抜け、敷地内に点在する姉たちや叔母たちの屋敷を横目に寂寂とした雪原をしばらく進む。  やがて視線の先にぽつんと現れたのは、これまで通り過ぎた豪華な屋敷はと比べ物にならないほど古めかしく質素な、廃屋に近い屋敷であった。これがシリウスの住居であり、現在ではほとんど造られることのない太い丸太積みの家である。  この数十年というもの、この国には日照時間がほとんど存在しなかった。降り積った雪は溶けぬまま押し固められ、緑豊かだったはずの大地を凍らせていく。長いあいだ薄暗く冷え切ったこの国の森林は、すでに大半が枯れ果てていた。  それゆえ現在この国の平民たち――クロノスの民――は雪の浅い場所から石を掘り出してそれを積み上げるか、氷を切り出しそれで家を造る。その一方で、皇族や貴族階級を占めるガイアの民は、国外から物資を運び込み、この異常気象がはじまる前と変わらぬ豪華絢爛な屋敷を建て続けていた。  シリウスは少年を肩に担ぎ上げたまま、鈍重な扉を引き開けた。自宅の中は真昼でも薄暗く、底冷えした陰気さが漂っている。  屋敷の二階へ登りはじめると、古い木造の階段は悲鳴にも似た(きし)みを上げた。
/170ページ

最初のコメントを投稿しよう!

235人が本棚に入れています
本棚に追加