波乱の幕開け

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◇◇◇ 「え? 間宮さんが?」 放課後、教室で帰り支度をしていた朝陽の元に、クラスメイトの男子生徒がやってきた。二人は何やら慌てた様子。 「ああ、お前たちの取り巻きの女子生徒が『痛い目に遭わせてやる』って話してるの聞いたんだ」 「多分、方向的に体育倉庫だと思う。確か、前任の副会長も一回あそこに閉じ込められたって噂聞いたことあるし、間宮さんもやばいんじゃないかな」 朝陽が詳しい話を聞くと、彼らは大々的にくるみを応援しているわけではない、いわゆる隠れファンというタイプらしい。 ファンクラブ会員の女生徒たちがくるみを呼び出したという話を聞きつけ、自分たちではどうにもできないと判断した彼らは、こうして同じクラスの生徒会執行役員である朝陽に助けを求めにきたというわけだ。 「頼む、久坂!俺たちじゃ役に立てないと思うから、代わりに間宮さんを助けてやってくれないか⁈」 「女子たちもお前の話なら聞くだろうしさ」 切実な顔をしたクラスメイトたちのお願いに、朝陽は困ったような顔を見せていた。先日くるみへの対処は「これまで通り」と、会長である令から言われたばかり。とはいえ、彼らの手前このまま何事もなく、この場を立ち去ることも難しい。 「わかった。とりあえず、様子を見てくるよ」 爽やかな笑顔を浮かべてそう返した朝陽に、クラスメイトたちは「よかった!」とホッと一息つく。 「教科書をズタズタにされたり、水かけられたりしても間宮さん泣いたりしてないけど……でもやっぱり女の子だし。傷ついてるとは思うんだ」 クラスメイトの言葉に、朝陽も「……そうだよな」と顔を俯かせた。 「女子たちからは敵意を向けられてるけど、間宮さん本当にいい人なんだ!この前も、俺が大事にしてるボールペンを失くして探してたら、一緒に見つけるの手伝ってくれたし」 「『顔がいいだけ』って悪口言う奴もいるけど、彼女が副会長に選ばれたのはそれだけじゃないと思うよ!」 くるみについてそう熱っぽく語る彼ら。そんな話を聞いて、朝陽は先日図書館で見かけたくるみのことを、ふと思い出した。 机の上には山のように積み重ねられた本。背表紙を見てみると、その本はどれも生徒会の会議で使う資料に関連したもののようで、くるみはそれを熱心に読み込んでいるようだった 彼女のおかげで、朝陽の仕事量も減り、随分と助けられている。その背景には、こうやって陰ながら努力をしている彼女の存在があると思うと、このまま見過ごすこともできなかった。 朝陽はふぅと小さく息を吐くと、「お前らの熱意はわかったから」と笑ってみせた。 「体育倉庫だったな?」 「ああ! 頼んだぞ!」 「了解」 行き先を確認した朝陽は、二人に軽く手を振って走り出した。向かう先は、くるみがいるであろう体育倉庫だ。
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