波乱の幕開け

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「聞きました? あの女の悲痛な叫び声」 飛び込んできた不穏な言葉に、朝陽はとっさに身を隠した。 「いい気味ですよね。いつもは澄ました顔してますけど、さすがにあんな暗くて狭い、おまけに埃っぽい場所に閉じ込められたら懲りるでしょう」 くるみを体育倉庫に閉じ込めた張本人であろうファンクラブ会員の女生徒たちは、そう言って笑いながら廊下を歩いていた。 ゾロゾロと大人数で固まっている彼女たちは、ファンクラブ会員の中でも上位に位置するメンバー。この学園にいる多くの帝華会ファンクラブ会員は、彼女たちを中心にまとめられている。 「ねぇ、静花(しずか)様」 そして、そのファンクラブのトップに君臨するのが一条グループのご令嬢、一条静花である。艶やかな長い髪がよく似合う、上品な佇まいの彼女だが、ファンクラブの規律を乱す者には容赦ないと有名な人物。温厚な笑顔が逆に恐ろしい。 「そうですわね。『皆、平等に』が決まりで、彼女だけ例外だなんてことは認められませんから」 彼女がそう言ってにっこりと笑えば、周りの女生徒たちも「そうですよね」と同調する。一条静花の言うことは絶対。逆にいうと彼女に逆らう者がいないため、このファンクラブは長年統制を取ってこられたともいえる。 「静花様!」 彼女たちがお喋りを楽しみながら歩いていると、後方から一条の名を呼ぶ声が聞こえてきた。振り返れば、そこには随分と走ってきたのか息を切らして肩を上下させる女生徒の姿があった。 「佐倉さん、どうかされましたの?」 一条がそう尋ねると、「佐倉」と呼ばれた女生徒は、「さっき……っ、体育倉庫を、確認しに行ったら……っ、あの女どこにもいなかったんです!」と声をあげた。彼女の言葉に周囲はざわついた。 「どこにもいないって……、ちゃんと外から鍵はかけたわ!」 「内側からは開けられない倉庫だから、この鍵がない限り外に出られないはずよ」 「どういうこと?」 それぞれに顔を見合わせた彼女たちは、状況を確認しに戻るためか、くるりと進行方向を変えた。そんな慌てた様子の彼女たちの後ろ姿を朝陽はじっと見つめていた。 「……黒幕はやっぱり彼女たち、か」 朝陽はポケットに入れていた手を出し、ハァ……と小さくため息を吐いた。
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