波乱の幕開け

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◇◇◇ 帝華学園に転入する前、くるみはイギリスにいた。 事情があり、引きこもりがちだった彼女は日本を離れ、穏やかな田園風景が広がる場所で気心の知れた使用人たちと生活を送っていたのだ。 中でも、くるみは教育係の桜木を慕っており、ティータイムの時間には彼女を自室に招いてお喋りに夢中になることもしばしば。 くるみの表情が日に日に明るくなっていく様子に、執事の月島も胸を撫で下ろしていた。ただ、その「お喋りの内容」は少々問題だったのだが──。 「桜木、聞いて!昨日ようやく俺様ドS騎士のレオン様を攻略したの!」 「何と!ついにお嬢様もレオン様を攻略したのですか!!ラストの甘い台詞、めちゃくちゃ最高だったでしょう⁈」 「俺様ドSのくせして、あれはないわ〜!ギャップ萌えでキュン死にしかけたわ〜!」 「ですよね、ですよね!!爽やか弟系騎士のアルバート様ルートとも迷ったんですけど、やっぱりドS男子さいっっこうですよね〜!!」 そう、まさに最近の彼女たちの間で話題となっているのは、女性向け恋愛ゲーム「イケメン騎士(ナイト)と王宮の姫君」だったのだ。 日本国内最王手の玩具メーカーであるMAMIYAが手がけたこのゲームは、まだ試作段階のサンプル品。開発途中なのだが、企画部部長と仲の良いくるみが自らお願いして取り寄せてもらったものだった。 幼い頃からくるみの父は、開発中のおもちゃをくるみに与え、その様子を観察しながら製品開発に取り組んでおり、部長と交流があるのもそれが理由の一つだった。 「でも、お嬢様。このゲーム、開発計画が白紙になったそうですよ?」 「そうなの⁈キャラクターデザインもストーリーも秀逸で、お気に入りだったのに!」 「何でも、そのキャラクターデザインが問題だったようで……。実は、メインの登場人物のモデルは日本に実在するお金持ちのお坊っちゃまたちだったらしく、肖像権で引っかかったようです」 そう言って、苦笑いを浮かべながらお茶を淹れる桜木。くるみは「残念ね」と、大きなため息を吐いたのだが、その直後ハッとした表情を浮かべた。
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