波乱の幕開け

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「本年度も例年通り、六月に学園祭が開催される。各部門で最優秀クラスと優秀クラスを選出されたクラスには、学園より祝いの品が贈られる予定だ。やるからには最優秀賞を取るつもりで団結し、全力で取り組んで欲しい」 静かな、けれど力のこもった声で話をしているのは、会長である三年の院瀬見(いせみ)(れい)。 国内有数の大企業の御曹司という彼は、見るもの誰もが振り返ってしまうような端麗な顔立ち。颯爽と歩く姿は堂々としており、この年齢にしてすでに人の上に立つ風格を身に(まと)っているリーダー気質の男である。 壇上で話すそんな彼を見て、うっとりとした表情を浮かべる女生徒の数は多く、彼の人気の高さがありありと伺えた。 わずか数分の演説を終え一礼すると、壇上をあとにした令。生徒会役員たちがいる列に戻れば、切れ長の美しい瞳は、鋭い眼差しで会の進行を(いかめ)しく見守っている。 「では、続いて全校生徒の皆さんへの連絡事項をお伝えします」 それから続く連絡事項の確認については、舞台の側に立ち、司会進行役も務めている副会長、三年の(たちばな)理人(りひと)が行った。 彼は、実家が花道の家元という名家の子息であり、普段着はもっぱら着物という和風男子。艶やかな黒の長髪は、今は藤紫の結紐でゆるく束ねられ、手元の資料から顔をあげると、時折肩にかかっていた髪がサラサラと後ろへ流れていく。 物腰も柔らかで、顔には人の良さそうな笑み。そんな理人は、厳格な令とは正反対に位置するような雰囲気の人物ともいえよう。 帝華学園の生徒会執行役員は、あと三人いる。 会長の隣に並んでいるのが、会計担当三年の如月(きさらぎ)(ゆう)。 イギリス人の母を持つ彼は、国内外にいくつもの高級ホテルを展開するホテル業界の御曹司だ。金髪ストレートの短髪が特徴的で、気品溢れる貴公子然とした外見は、どこにいても良く目立つ。 お金を管理する仕事をしていることもあり、頭の回転が早く、暗算での計算スピードが異常に速いという点は彼の特技のひとつである。 そんな遊の隣には、書記で二年の久坂(くさか)朝陽(あさひ)が背筋をピンと伸ばして姿勢良く立っている。垂れ目がちな瞳の彼は、すらりと背が高く、いかにも好青年という感じで爽やかな出で立ち。 ちなみに、彼の父親は世界的にも有名な大手アパレルブランドの創業者。幼い頃には父が手がけたブランドのモデルとして活躍していた過去があり、その時期の彼の写真は女生徒たちの間でも、たびたび話題になっているのだとか。 そして朝陽の隣、列の一番左にいるのが一年で庶務の東雲(しののめ) 彼方(かなた)。 大手自動車メーカーの父を持つ彼も、やはり超金持ちのお坊っちゃまである。免許はないのにコレクションとして高級スポーツカーを何台も持っており、時間があれば愛車の手入れに勤しんでいるという根っからの車オタク。 襟足まで伸びた髪と同じ色をした瞳はキュッと目尻が上がっていて、まるで猫のよう。小悪魔を思わせる中性的な容貌と、人懐っこい性格も相まって上級生からも受けがいい。 容姿端麗、成績優秀、運動神経抜群、そして家柄と、すべてを兼ね備えている彼らは、いわば学園のピラミッドの頂点に立つ存在。廊下を歩けば、あちこちから熱視線が集まり、常に注目の的である。 ちなみに、在校しているほとんどの女子が彼らのファンクラブに所属しているがゆえ、もろもろの事情により、この生徒会には女子の役員が存在しない。 過去に女生徒数名が役員に就任したときには、ファンクラブからのやっかみがひどく、結果彼女らは自ら役員を辞退することになった。それ以降、この生徒会には女子役員は不在。彼らはその補充を行うことなく、五人で運営を続けている。 「以上で、本日の生徒集会は終わります」 司会である理人の言葉で締めくくられ、アナウンスに従い各々が教室へと戻っていく中、間宮くるみが舞台下に集まる生徒会役員たちのことをじっと見つめていた。 「……本当にいたのね」 彼女が小さく呟いた言葉は誰の耳にも届くことなく、雑談をしながら歩く生徒たちの喧騒にかき消されていった。
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