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目覚めてすぐに見るスマホは、赤い電池マークが表記されている。彼女に言われていたのに、寝る前はスマホを切って充電しなさいと、それなのに・・・
「う・・・ぐ」
寝室のベッドに僕はいつの間に移動したのだろう?ダイニングソファーで、シロクマさんを抱きしめて、閉めきったカーテンの隙間からもれる雷鳴に怯えていたのに。
がた、がた・・・
寝室を出なきゃいけない。物音の正体を確かめなきゃいけないのに、僕はのどかちゃんが置いていったままの化粧台に座って、写真たてを眺めている。
****
5歳上の年上の彼女ができたと両親に報告したときは、反対されるのかと思ってた。けれど、ガチガチに緊張していた僕より、しっかりしていたから、両親は僕たちの未来を応援してくれたんだ。
『御条さんが緊張するのに、お前が真っ赤になってどうする?』
『結城くん、笑顔だよ笑顔』
細長い指で僕の頬をつかんで、笑わせたとき、和やかな空気になっていた。
****
黒髪ロングヘアーの御条のどかは、28歳の若さでこの世を去った。気づいたときには末期で、3年前からこの部屋に来ることもなくなって、彼女が終活をしていたことに気づいたのは、のどかちゃんの部屋に置いたままの僕の荷物を整理していた時。
『這って出てこようか?髪の毛下ろして、幽霊みたいにさ~』
『のどかちゃんらしくない、怖がってる僕を見て笑う悪女じゃないでしょ?』
ドドドドドドドドン!!
また感傷に浸っていたら、早く起きろと寝室のドアを激しく叩かれた。向こう側にいる非現実的な何かに。
まだ元気だった頃、のどかちゃんがDVDを借りてきた。あの頃彼女のブームは、恋愛ファンタジーもので、亡き妻や恋人が再会を果たす場面を見ながら、そんな話をした。
激しく叩かれるノック音が止まない。僕は試しに聞いてみる。
「のどかちゃん、です・・か?」
悪女にはなりたくないと大きな茶色い瞳を細めていたから、こんなホラーみたいに呼び出すのなんて、のどかちゃんじゃないよ。
音が止んだ。のどかちゃんが部屋に入れてはくれないだろうとシロクマに魂ごと転移したのか?非現実的すぎるけど、貞子で再会なんてごめんだと泣きじゃくっていた僕を見ていたはずだ。
ドクン、ドクン・・・
寝室のドアを開けるだけなのに、手のひらに汗が出ていた。
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