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シロクマさん
ぎいぃと扉を開けて目に入ったのは、衝突したのか、物が散乱していたこと。そして、ダイニングテーブルには、パンの袋が置かれていた。僕が置いたのではないことはわかってる。そして、扉を叩いていたシロクマさんは、慌てたのか、ソファーに頭から突っ込んで、足をだらんとさげている。
「あのぉ~シロクマさん」
シュールな状況だ。シロクマさんがキッチンを移動したことを示すように、キッチン付近に置かれた小物が散乱していたのだから、しかも、シロクマさんは動かないという選択をしている。あれだけ扉をドンドンと叩いたのは、シロクマさんしかいないのに。
「のどかちゃん」
真ん丸い耳がわずかに動き、ゆっくりとこちらに顔を向けるつぶらな黒い瞳。会いに来てくれた。僕の部屋に置いたままのシロクマさんに魂を転移させて。
ガ、ガガガ・・・
こちらを振り向いたのはいいが、サイズ感をわかりきってはいなかったようで、ソファーの前にある小さいテーブルに、下半身を挟まれている。
「無理に動かさないで、僕が動かすから」
ポンポンという音が聞こえてきそうな行動をしているシロクマさんことのどかちゃんは、照れ隠しなのか頭を撫でていた。
「5年も経つのに、僕が変わらないままだから会いに来てくれたの?」
のどかちゃんが亡くなって5年が経つ。僕は彼女と同い年になってしまった。こくこくと頷くシロクマさんを見て、僕は、のどかちゃんが言っていた言葉を思い出す。
『わたしはシロクマさんになって会いに行くから、それなら怖くないでしょ?』
『ありえないって反論するかも』
にっこり笑って上目使いに僕を見上げていたのどかちゃんが、こんなに背が高くなって僕を見下ろすなんて。
『ありえないことでも会いに来てくれた嬉しさが非現実的な光景より勝ると思うんだよねぇ~何がどうなったかなんて、考えられないくらいに』
着ぐるみじゃないとわかっている。僕が反論できないのは、のどかちゃんが言っていたことを実感しているから。
「っぅぅ・・・」
どんな姿になろうとも、僕を心配してくれてまた会いに来てくれたからだ。
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