シロクマさん

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 ぬいぐるみに話しかける人はどうかと思っていたのに、シロクマさんが動いた日から、僕は少しずつ明るさを取り戻していった。 「本庄(ほんじょう)さんいいことあった?」  シロクマさんになった亡き恋人が、部屋にいるなんて信じてくれないだろうから、小さく頷く。話しかけてくれた美園(みその)さんは、短いため息を吐くと、長いまつ毛を伏せて。 「よかったぁ、元気になってくれて。あたし、のどか先輩が亡くなった時、本庄さんも後追いするんじゃないかってほど、憔悴してたから」  同い年の美園さんは、のどかちゃんの友人で僕らの共通の知人でもある。明るい茶髪のボブヘアーをウェーブさせて化粧は控えめで、笑うと左右にえくぼが出る。 「ごめんね。心配かけて」 「本庄さんが元気ないと、のどか先輩出てきますよ」  両手のひらを下げて脅かしてみせる。いや、もう出てるんだわとは言わなかった。苦笑して微笑んでいると、唇を軽く結んでから、美園さんが言ってくる。 「5年も待った。うぅん、本当は先輩と付き合っていた頃から好き!!」  カラカラとコーヒ豆が軽快な音を立てていた。平日のコーヒー店はコーヒーの香りと、数人のお客様がいて、僕らはバックヤードでコーヒ豆の状態を確認していた。 「のどかさんには生前に打ち明け済みです。わたしが亡くなっても、変化なしだったら動けよってアドバイスくれましたから」  いつの間に結託していたの?
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