新人研修はラビリンスで ★第187回妄想コンテスト「道」優秀作品

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 体を起こしてベッドに腰かけると、目の前に右手をかざした。そこにメニュー画面は現れない。 「アクア、おはよう。部屋の電気は消して」  久し振りの連休初日。私はワイシャツ一枚でキッチンに立つと、目覚ましのインスタントコーヒーを体に投入した。 「ビデオ通話が入っています」 「アクア、ワンサイドで受けて」  アクアの知らせに、まさか仕事かと思いながらモニターの画像が切り替わるのを待った。すると映ったのは、前に新人研修を終えた小川さんだった。 「美波せんぱーい。元気ですかー。起きてますか?」 「アクア、繋げて」 「あ、せんぱーい」  こちらの映像が届くと、チェリーとは思えない小柄な小川さんが手を振った。 「小川さんどうしたの?」 「美波先輩、連休ですよね。私も取ったのでライブアトラス行きましょー」 「はあ? あなたねー」  配属された部署での、小川さんの評判は聞いていた。他の新人よりも勘が良く動きが違うと。それは密かに、私の自信へと繋がっていた。 「あっちで道を切り開いたら、こっちでも上手くやれる気がして。ずっと続けてるんですよ。今の私のレベルを見てくださいよー」 「もーわかった。十分後でいい?」 「やったー! 美波先輩、久し振りに見たらキャラと真逆ですね」 「失礼ね。小川だってじゃない」  私は胸元を抑えて、呼び捨てで言い返した。 「ひっどーい。じゃあ宿屋で待ってますねー」  満面の笑みを見せて小川さんはモニターから消えた。
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