22人が本棚に入れています
本棚に追加
体に密着したプラグスーツを着ると、いつも女性らしい曲線のなさを実感させられる。そこにフルフェイスのプラグマスクを着けた姿は女性ライダー。と言うより頭でっかちな宇宙人みたいだ。
装着にミスがないか確認するとダイバープラネットのターミナルリキッドに全身を沈めた。
ダイバープラネットは五感没入型のハードで、私がやっているゲームのプラットホームだ。
ターミナルリキッドで満たされた容器の中で、私の感覚は浮遊感から何も感じなくなってゆく。意識さえも。
**********
体を起こしてベッドに腰かけると、目の前に右手をかざした。そこにメニュー画面が現れた。ここはサイバーファンタジー『鋼鉄のレゾンデイト』の世界だ。どんなに視界が変わっても、感覚ではあっちとこっちの区別がつかない。だから私は目が覚めると手をかざす癖がついた。ただ目覚めは現実よりもずっといい。実際には眠っていないのだから当たり前かもしれないけれど。
そろそろ新入社員の五百城と約束した時間になる。私は装備を確認した。ボディーペイントみたいな全身スーツの上から、胸と腰回りにだけメカニカルなパーツが付いた姿は、本当の戦闘なら守る気など微塵も感じられない防備だ。
初期設定で登録した顔写真十二枚を使って作られたアバターは、アプリの加工よりも綺麗で満足度が高い。でも首から下はデフォルトのパーツ選択で、文字通り自分の手に余るボディばかりなのが不満だった。
諸々の装備も整えて宿を出ると、丘から見下ろす先に緑に埋もれた機械建造物が点在するフィールドが広がっていた。ここは高い山々に囲まれた最初の冒険の舞台だ。
最初のコメントを投稿しよう!