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「美波先輩おはようございます!」
元気な声に振り向くと、お腹と足を剝き出しの装備に、顔だけが新人小川さんのキャラクターが立っていた。
「時間通りなのはいいけど、こっちでは名前で呼ばないでもらっていい」
「あ。ごめんなさいカプリコーンさん」
悪戯っぽく舌を出す悪びれないところは嫌いじゃなかった。
「それも面倒ね。先輩でいいわ。あなたはチェリーよね。チュートリアルはやってきた?」
「はい! バッチリです」
「じゃあ、実践といきましょうか」
「これ本当に新人研修なんですか?」
言葉とは裏腹に、小川さんは目を輝かせてフィールドを眺めた。
「うちの会社、ほとんどの社員がリモートなのは知ってるわよね」
私はメニュー画面をいじりながら話した。
「だから全ての評価は、過程じゃなくて結果で決まるの。結果を出せないと、出社組になって就業時間で拘束をうけるわ。出社研修はやったわよね。あんな感じ。で、結果が出せる人はリモート組になって自由に仕事ができる。あなたはどっちが望みかしら?」
「出社組は絶対に嫌です。あんな、時代に取り残された環境耐えられません」
「だよね」
フィールドマップを拡大した私は、スクリーンバックを半透明にして、目の前の風景と重ね合わせた。
「奥にある渓谷の先が次のフィールド。たどり着くには、この中央の建物を抜けるしかないわ。多層階の迷宮になっていて、私たちの目的は、その攻略ね。こっちにある町でアイテムが揃えられる。素材が手に入ったら装備の強化もできるわ。あちこちにある遺跡や洞窟なんかは行ってからのお楽しみ。貴重なアイテムや素材があるかもね。どっから行く?」
「先輩。答えになってません……」
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