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「そっ。人としても」
ゲーム内の一日は短い。数時間で夜が訪れる。薄っすらと見え始めた星を眺めながら、私達は宿屋へ向かって並んで歩いた。
「二十年近くかけて、私達は社会に出るための研修を受けたはずよね」
「そう言われたら、そうですけど……」
「自信がないのは分かるわ。私もそうだった。でも物事の良し悪しを判断する力の差くらいはあると思わない?」
「まあ、たしかに」
「ゲームも人生も一緒よ。社会っていうフィールドで、同じ経験をしても、そこでどう考えて何を得るか。人としてのレベルが上がれば、人生の攻略も楽になるかも。なーんてね。人生はゲームよりもっと複雑だけど。でも、面倒だし無駄に思えることでも自分次第て思えたら楽でしょ?」
うまく笑えていたか分からないが、私は笑顔でウインクをしたつもりだった。
「なんか楽しみになってきました!」
「ほんと? 良かった。じゃあ今日はこれで終わりね」
「ありがとうございました!」
私達は宿屋に入ると自室に別れた。
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ラビリンス最後の玄室。その扉を前に、チェリーは剣とアーマープレートを携えた死に損ないに囲まれていた。レベルよりも圧倒的な数での消耗戦を、彼女は一人で凌いでいた。二日目にチュートリアルをリプレイして来たチェリーの成長は、私も目を見張るほどだった。プレイヤーとしての成長はキャラクターのレベルを底上げし、戦闘効率アップで装備もスキルもどんどんと充実させていった。そしてついにラビリンス最奥、ラスボスのいる玄室に辿り着いた。
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