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体を起こしてベッドに腰かけると、目の前に右手をかざした。そこにメニュー画面は現れない。それは目が覚めた時の私の癖だ。
「リアルワールドか」
リビングの窓を開き新鮮な空気で血管を満たすと、喉の渇きが主張をはじめた。
「アクア、おはよう。部屋の電気は消して」
私の起床を察知して明かりとモニターをつけてくれたホームAIのアクアに声をかけると、自然光の中キッチンに向かいミルクを温めインスタントコーヒーを溶かした。
はたしてハイネックでノンショルのセーターは、寒いから着てるのか。それとも暑いから着てるのか? そんなグレーのセーターで胸の起伏を強調させた女子アナが、ぺったんこなモニターの中で異常気象のニュースを読んでいた。
心もとない私の記憶でさえ三年は異常気象が続いているのだから「それはもう異常じゃなくて通常じゃん」とマグカップをモニターに向かって突き出しながら突っ込んだ。
「アクア、モニター消していいわ」
映像が消えると、うすっぺらな黒い鏡面に、うすっぺらい顔をした自分が映っていた。主張するものが何もない胸元まで開いたワイシャツが、私が私であることを主張していた。左手で頭を撫でると、目の前にいる私の右の髪が、ぴょこんと跳ねた。
「さ。仕事するか」
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