踏み入れたくない

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 しっかりと畳まれたタオルや布団を見ると翔太が自衛隊上がりの刑事であるというのを物語っている。  今日の告別式はどうしよう。まずは顔を洗って……着替えて、化粧しなくては。  昼前のはずだが……やはり昨日の通夜のことを考えるとあの2人はもう行かないと言ってたし、私だけでもいくか?  あ、電話。お母さんから。 『美夜子、おはよう。朝早いわね。昨日のお通夜大変だったでしょう』  相変わらず明るい声で昨日通夜に行った私に対してのテンションではない。それはいつものことだからいいが。 「葬儀所に出入りするときがね、取材の人たちってどこまでもたかってくるからさ」 『見たよ。今もワイドショー見ると葬儀所のところとか家の周りとか……見てる?』 「見たくもない」 『あんたはうつってないから大丈夫』 「はぁ。で、どうしたの」 『あのね、市役所まで連れてってほしいのよ』 「いつ」 『今日』 「今日?!」  うちの母は前からわかってることを当日に言うことが多い。ほんと困る。 「なんで」 『手続きでね、ちょっと』 「ちょっとやとわからん! それに私告別式でるつもりだし」 『そうよねぇ、あ、別に昼からでもいいからね』 「……わかった、昼過ぎに行くわ」 『一応昼ごはん用意しておくね』 「うん、じゃあまた連絡する」  はぁ、とためいきつくと 『大崎奈々子さん、だったわよね……旧姓は小菅奈々子さん』 「そうね」 『何回かお会いしたけど優しそうな子で……信じられないわねぇ』  確かに何回か遊びに行く際に家に来たんだけどチラッと顔を見せただけである。 「ねぇ、間違っても取材に答えちゃダメよ」 『ああ、うちに来たわよ』  ……!? なぜ我が家にも取材が? 『大丈夫、おっぱらったから。写真くれとか言われたけどね』 「ならいいけど。じゃあ昼過ぎに」  電話は切れた。人のことを探って何が楽しい、でもそれが仕事なのだろう……マスコミは。  私はうんざりだったがテレビをつけた。  ちょうどその時速報が流れた。 『速報 身元不明だった同乗者の男性の身元が判明しました』
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