沈黙

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会場は華やかな雰囲気に包まれていた やっぱり馴染めないな… 私はいつになったら こういう場所にもふさわしい大人になれるんだろう 彼に… 大人の女性として見てもらえるような… いつの間にか彼の事を考えている自分に対して 嘲笑するように笑って首を横にふった… ふと スーツ姿で談笑する彼を会場内に見つけて目が合った ドキンと心臓が跳ねて思わず視線をそらした そしてまた胸がズキンと痛んだ… 彼が父の元にやって来て “ご無沙汰してます”と挨拶をしてきた 父もにこやかに微笑んで彼と何か話してる 私は心臓が早鐘のようにドキドキとするのを止められなかった (平気よ…平気 落ち着いて…冷静に) 心のなかでおまじないのように唱えるしかなかった 父と彼が何を話しているかなんて 気にする余裕すらなかった 突然 彼が私の顔を覗き込んで “元気?”と微笑みかけてきた時 私は素っ気なく “おかげさまで…”と彼の顔を見ずに応えるのが精一杯だった そうよ 私は死んだように過ごしている だけど そんなこと幸せに恋人と過ごしている彼には関係ない事だ じっと彼に見つめられている気がして 目を向けると そこには、悲しそうな彼の顔があった なんで そんな顔で私を見るの? 私は、今までに経験したことがないほど胸が痛んだ… 彼のマネージャーがやってきて 何やら彼に耳打ちをすると 彼は黙って私達のテーブルから離れていった 私は 彼の手を思わずひっぱりたい衝動を押さえるために私の手をぎゅっと握った…
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