Another jealousy

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Another jealousy

パーティーは好きじゃない… 社交辞令とお世辞の渦の中で 俺は手持ちぶさたに壁にもたれて立っていたひっきりなしに人がやってきては、 にこやかに話しかけてくる… 俺に…ではなく 俺が稼ぐMoneyにだ… あわよくば割の良い儲け話はないかと虎視眈々と狙っている… その証拠に彼らの瞳の奥は誰一人として笑っていない 唯一… 俺に満面の笑顔を向けたのは美兎だけだ… 思いもよらないゴシップのお陰で 俺の行くところ行くところ、 パパラッチだらけだ… 思うように動けない事が一番のストレスだ あの女優とは確かに何度か仕事をしたが 男女の関係など一切ない そもそも 最初の顔合わせの後 “うちの娘の相手が何故有色人種なのか”と 彼女のステージママが クレームを入れたと聞いている… おそらく彼女は白人至上主義者なのだろう そんな女の娘を恋愛対象として見るわけがない 母親は問題アリだが 娘の方は、意外にも仕事に関しては こちらが頭が下がるほど ストイックで、プロフェッショナルだった スタッフにも優しい気配りを見せた 良い仕事ができたのを覚えている… 良い結果が出る事は俺はもちろんだがスタッフも嬉しい ただそれだけだ… 優れた仕事相手にしか過ぎない… あのキス写真も 仕事の宣伝用に撮影したものの それを見たとたんに 例のステージママがしゃしゃり出てきて “娘のイメージダウンにつながりかねない”と すごい剣幕でまくし立て お蔵入りしたものじゃないか… どこから出てきたんだ…あんなもの… わけがわからない… おかげでここ数日間、眠りも浅くメンタルも最悪だ… 美兎に会いたい… その言葉だけがずっと頭の中を駆け巡る… 今この瞬間も… 憂鬱な思いで 苦虫を噛み潰したような顔をしながら考えていると 諸藤氏が会場に入ってくるのが見えた (確か今日は婦人同伴だったな…) 挨拶に向かおうとした目に 諸藤氏の後ろを歩く美兎の姿が見えた… 瞬く間に幸せで心が満たされていくのを感じた こんなにも心が逸る事に自分でも驚いた もう周りの誰の事も眼中になかった… 足早に近づき 諸藤氏に “ご無沙汰しております”と声をかけると “おやおや 久しぶりだねぇ 最近は君の噂で世間はもちきりだね 今日は彼女は来てないのかい?” やはりその話題は避けては通れないのだろう “諸藤さん…実は… あの噂は根も葉もないものなんです 僕も始終パパラッチに追われ お宅にも伺えないありさまです ボードゲームの続きが、おあずけになっていて気になって仕方ないんですよ 夜も眠れないほどです” 本当はボードゲームではなく美兎なのだが… 諸藤氏が静かに微笑みながら “Joshua君… 長く生きていれば、いろんな事が起きる 巻かれてしまうか 切り開くか…君次第だ… 謂れのない噂なら… 君は堂々としているべきじゃないかな いつでも我が家に来なさい ボードゲームは逃げたりしないさ ずっと…待ってるよ” 諸藤氏に 心の内を見透かされたような… そんな気がした 隣で俯いて座っている美兎は 黒髪をアップにまとめ 薄いピンクの豪華なレースとシフォンのロングワンピースを着てる 色白で 折れそうに細いうなじを見ていると思わず抱きしめたくなる 美兎の顔を覗き込むように “元気?”と声をかけると 美兎は顔も向けずに 冷たく“おかげさまで…”とだけ言った 屈託なく笑い転げ 満面の笑顔を向けてくれた美兎はそこにはいなかった… 心が張り裂けそうだった 自分の中で美兎の存在がこんなにも大きなものになっていた事に改めて気づいた 美兎が俺を見てくれない事が… こんなに悲しいなんて…
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