月の下で

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月の下で

帰宅すると… 彼がいた… リビングのソファにゆったりと座り母とにこやかに話していた ATSUKOには予知能力でもあるのかと思った そこにいる人は… まさしく彼だった… なんて絵になる人かしら… 私はうっとりと彼を客間の入り口に立って見つめた “あら 美兎ちゃん帰ったのね Joshuaさんが途中だったボードゲームがしたいって言われてね 今日は皆でゲーム三昧よ” 母が私に気がついて笑顔で話しかけた “そ…そう ちょっと疲れたみたいだから、部屋で少し休みます” そう言って私は部屋に戻り ドアにも鍵をかけてベッドに横になった… (また…笑えなかったな…) そう思うと 自己嫌悪に苛まれる… 祖母が “そんなにボードゲームが好きなら 今度、麻雀をお教えしますから一緒にやりましょう”とか言ってる… (お目当てはゲームで私なんかじゃないわ… きっと几帳面なのね… 神経質なのかしら… それにしても、いい歳をしてゲームなんて… ばぁばも…麻雀好きだなぁ…) 取り留めもないことを考えていると いつの間にか眠ってしまっていた… 気がつくと すっかり日は落ちて… 空には大きな満月が出ていた… “綺麗…” 私は部屋の前にある小さな庭に裸足で出ると空を見上げ呟いた… “綺麗だ…” 突然、背後から声がして背中がビクッとはねあがった ふりかえると そこにJoshuaが立っていた… 我が家の客室の中庭から私の部屋の前までは地続きになっている “まだ…いたの…ですか” また、そっけない返事をしてしまった… ATSUKOの言葉が甦った “話してみることね…” “私は美兎の味方だよ…” 私は意を決して振り向いた すると 触れるか触れない位の、際どい位置に彼の厚い胸板があって、私は思わずのけぞった… “ねぇ… 僕の事…嫌いかい?” 母親に叱られる子供のような顔をして彼が私を覗き込む… 私は大きく息を吸って “嫌いもなにも… あなたにはJulieさんがいるじゃないですか 何でそんなこと聞くんですか?” 自分でも声が…震えてるいるのがわかる… “違う! Julieは、数多い仕事仲間のうちの一人だ それ以上でもそれ以下でもない” 私は段々と腹が立ってきて “へえ あなたは仕事仲間全ての頬にキスをするのね! そんな話聞いたこともないわ!” “あれは仕事の宣伝用に撮ってお蔵入りしていたものだ 君だって…青い瞳の男と楽しそうにダンスしてたじゃないか! 俺だってまだなのに!!” 彼の剣幕に驚くと共に 私の怒りはピークに達した “私が誰と踊ろうと私の勝手でしょ! だいたい 何であなたに怒られなきゃいけないのよ! 私はあなたの何? 私はあなたの誰? あなたは私の何?” その時 いきなりJoshuaが私を抱きしめた 切なそうに “踊っていただけませんか 月の下で…” 彼は私の手を取り すっと抱き寄せると 軽くハミングしながらステップをふみだした… “あの… Joshuaさん?…” 驚きと戸惑いで 彼に声をかけると “Josh……” (そう呼べということ?) “Josh… 私は怒ってるのよ!” 気をたてなおしてもう一度彼の顔を見上げた 苦しそうな瞳で彼は “愛してるんだ…美兎… 君が他の男とダンスを踊るなんて考えられない 会いたかったんだ…ずっと 夜も眠れなくて… 気が変になりそうだった…”
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