出会い

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出会い

会場の中は 正面奥のステージでは生演奏があり そこかしこで頬をよせて踊る男女が見受けられたり シャンパングラスを片手に談笑する人がいたりと、割りと皆さん楽しんでいるようだ よく見ると “あの男の人、この間オスカーとった俳優さんだわ”とか “うわっ!父の好きなシンガーだ” とか 慣れない私はミーハー丸出しでキョロキョロしてしまう すると、すかさず明子様 “美兎さん、キョロキョロしないで、はしたないですよ お義父様の腕を離さないで 背中をまっすぐにして”と小声でダメ出しが入る (か…帰りたい…) 私の頭の中が帰宅願望でいっぱいになるのにそう時間はかからなかった 唯一、楽しみにしていた食事も 父のそばから離れることはできず ひっきりなしにご挨拶にみえる方 父からご挨拶にうかがう方 その都度父が “娘の美兎です”と紹介するので、私は休むこともできず 履き慣れないヒールの痛みもあって とうとう “お父様、少しお手洗いに行かせていただいてよろしいかしら?”と頃合いをみて告げた お手洗いなんて更々行く気などなく 私はかっこうの秘密基地を見つけたのだ… それは 老舗ホテルらしく 会場の両サイドにある大きな窓… その窓は大きなテラスにつながっている 今日の月は美しい テラスから眺めればどんなにロマンチックだろうか… では 秘密基地とはテラス? いえいえ 大きな窓には重厚で立派なカーテンが これまた豪華なタッセルに纏められている その纏められたカーテンのうしろ…(笑) 私は、会場からは死角になるそのカーテンのうしろに身を隠しヒールを脱いで月を愛でた 頃合いをはかって父の元に戻ればいいだろう 今はこの馴れ合いのような わざとらしい社交に疲弊した心を少し休ませよう “what are you doing?” 突然話しかけられビクンと背中が動いた
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