出会い

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人懐こい瞳が私を見ていた この人は… さっき会場に入ってくるなり 人々の視線を一身に受け にこやかに手をふり 時にはご婦人にハグをしながら 熱烈な拍手と歓声に迎えられたグラミー賞総ナメの 今や飛ぶ鳥を落とす勢いのシンガーのJoshuaだった もちろん初めて間近で見るその人は (なんて足が長いんだろう なんてタキシードが似合うんだろう) とみとれてしまうほどたった 褐色の肌と 人懐こい瞳をしたその人が カーテンのうしろで裸足で隠れている日本人女性に興味津々の表情で見つめている そこえ “Hi~ Joshua” この声は…明子様だ😱 “日本人女性見なかった?” 彼が一瞬、私の方に目を向けたとき 私はすばやく 人差し指を口元に持っていき片目を瞑った 彼は 私を隠すようにカーテンの脇に立ち “知らない”と告げた 明子様は 丁重に彼にお礼を言い “今度、うちのパーティーにもいらしてくださいね”と社交辞令のお誘いを忘れなかった (流石ですね…御姉様…) 心のなかで呟く 明子様は日本語で “まったく…どこに跳ねて行っちゃったのやら お義父様から叱られてもしらないから” とボヤキながら立ち去っていった (あぶなかった…) でも、そろそろ父の所に行かないと帰ってから大目玉だなこりゃ… ヒールを履こうとした時彼が話しかけてきた “なんでこんな所にいたの?” (そんなに気になる?)と思いながら… “ご迷惑かけてしまってごめんなさい” 彼の背中に向かって言った “月を見ていたの それに…私…こういう場所苦手なの…” たくさんの人の前で歌い感動させ常に人に囲まれ、こういう場所には飽きるほど出席し慣れている彼には到底理解してもらえないだろうと思いながら… “僕と一緒だね” 驚くことに彼は私に優しく微笑みかけながらそう言った “本当に?” 私が尋ねると “もう帰りたい” …………………“一緒だ~”自然と二人で声を出して笑っていた “ねぇ 僕のこと知ってる?” 彼が尋ねた “もちろん!” 彼は不思議そうに “でも君って他の人と違うよね まるで僕のこと全く知らないみたいに話してくれる” 彼の瞳が少し寂しそうに揺れたような気がした “あら それは逆よ 他の人たちは今のあなたしか知らないからよ“ “what?” 彼が少し面食らったように私を見つめる “この小娘は何を言ってるんだ”と言わんばかりに 私はわざとらしくエヘンと咳払いをして “なぜなら… 私は2000年前からあなたの事を知っているから” とおどけてみせた 彼は一瞬キョトンとした後 プーっと吹き出し お腹を抱えてケタケタと笑いながら “それを言うなら僕も君のことを2000年前から知ってるよ ビラミッドのツタンカーメンの後ろでかくれんぼしてた頃から”と言った そして二人でケタケタと笑った そう…子供のように… “ごめんなさい もう行かないと、クフ王がお怒りなの”と言うと 彼はまた大声で笑いながら “行かなくていいよ ほら向こうから来る3人はクフ王とお付きの人だろ?” 見ると父と兄夫婦が血相を変えて小走りでこちらに向かって来ているのが見えた 私は (明子様…はしたなくてよ…) と思いながら彼らを呆然と見つめた そりゃそうだろう この格式張った社交場で 時の人の彼と 子供のように大声でケタケタと笑う東洋人の小娘は、さぞや目立ったことだろう… (やらかしてしまったな…) 内心、冷や汗をかきながら私は父、兄夫婦がやって来るのを青ざめた顔で待った そんな私の様子が面白いのか 彼は涙を流しながら 押さえられない“ククッ”と嗚咽にも似た声を漏らしながら肩を揺すっている それはそれで目立つのだか…と思いながら この後、どんな風にクフ王の雷が落ちるのか、そればかりを考えていた
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