出会い

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私たちの前に父がやって来た 顔が赤いのは酔ってるのではなく 確実に、私に怒ってるから 私に何か言いたげに目の前に立つ でも父が言葉を発する前に Joshuaが父に声をかけた “こんばんわ ミスター・諸藤 お会いできて光栄です” 父ってこんなグラミー賞を総ナメにするような世界的なスターから名前を覚えられるくらい有名人なんだ 私が驚いていると 彼が続けた “娘さんでしたか? 僕がお引き留めしたんですよ申し訳ない ご心配されたのですね とても楽しくて時を忘れてしまいました 素敵なお嬢さんですね” 父は驚いて “Joshuaさん… 素晴らしい御活躍拝見してますよ 今日はお会いできて私の方こそ光栄です 娘は、このような場にあまり慣れていないものだから… 何か失礼はありませんでしたか?” きっと、父の頭の中は 私への怒りでいっぱいのはずなのに きちんとJoshuaさんにそつなく挨拶を交わすところはさすがだ それにしても どうやら私はどこまでも信用がないようだ… “とんでもない 僕とすごく気が合って 楽しすぎて こんなに笑ったのは久しぶりですよ” その言葉を聞いて父の顔に安堵の表情が浮かんだのを私は見逃さなかった (これで雷回避) 小さくガッツポーズをJoshuaにしてみせると 彼はまたもや 口元を押さえて横を向いて吹き出すのだ その様子を戸惑うように見つめる明子様は いったい何が起こっているのか まだ理解しきれていない様子だった 父が “それは、よかった 席をはずしたっきり見当たらなくなったもので心配したんですよ 何か粗そうをしでかさないかと よかった…よかった… それでは私たちはこれでおいとましようかと 失礼するよ” と踵を変えて立ち去ろうとした時 Joshuaが私の手首を掴んだ “ねぇ 今度はいつ会える? また会いたいな…” 招待客が一斉に注目しているのがわかる 周りの空気が止まったのかとさえ思う 父もさすがに返答に困っているのか 咄嗟の社交辞令が出ない それだけJoshuaという人がビッグな存在で きっと たくさんの人から腫れ物にさわるような扱いをされているんだろうと思った 咄嗟に私が “そうねぇ… 今度の満月にツタンカーメンの後ろで隠れんぼしてる私を見つけたら会ってあげてもいいわよ“と応えると… 私の言葉に 父も、兄夫婦も、周りの招待客も凍りついた なんて事を言うんだこの小娘は❗ 刺すような視線が私の体に向かって無数の矢のように飛んで来る その時 彼と私だけが ケタケタと大声で子供のように笑いだし それにつられて お愛想混じりの笑い声が広かっていき いつの間にか みんながにこやかに微笑んで 中には “お嬢さん、今度は我が家のパーティーにも是非いらしてね”とわざわざハグをしてくれるご婦人まで現れる始末 父と兄夫婦だけが 一刻も早く私をこの場から連れ出さなければという結論に達したようで 私たちは早々に会場をあとにしたのだった 父は車の中でも 帰ってからも終始ご機嫌だった なぜなのかわからないけど まぁ…合格点をもらえたのだろう 帰宅後父は 祖母と母に 私の武勇伝と言って、今日あったことを珍しく饒舌に話して聞かせた 祖母も母も、父の話をにこやかに聞き 祖母は私の頭を撫でながら “美兎ちゃまは、やる時はちゃんとできる子だからね”と目を細め 母は “それは、疲れたでしょう 今夜は月が綺麗だったから美兎を守ってくれたのね”とウインクしてみせた どうやら この二人にはお見通しのようだ
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