透明人間

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「透明人間が立ってたんです」  それは、Tさんが急な夕立に襲われ、コーヒーショップで雨宿りしていた時の事だ。窓際の席に座り、コーヒーを片手にぼんやりと外を眺めていると、視界の中に妙な違和感を感じた。最初は目の錯覚か何かだと思ったが、目を凝らし、注視すればするほどに、雨に当たって浮き出た輪郭がはっきりと見えるようになったと言う。  大人の男性ほどの背丈のそれは、車両が行き交う横断歩道の真ん中で何をするでもなく、ただその場に立っているだけだった。  歩行者用信号が青に変わると、Tさんはある事に気付いた。 「透明人間は私にしか見えてないみたいでした。それはそうですよね、透明ですし……」  横断歩道を渡る人たちは、誰も透明人間を避けようとしないのである。  しかし、透明人間と歩行者がぶつかる事はなかった。透明人間の体は、歩行者の体をすり抜けていたのだと言う。 「透明人間って言うか、どちらかと言うと、幽霊みたいですよね」  Tさんは冗談っぽくそう言うが、その表情はどこか不安げに見えた。 「それからしばらく透明人間を観察していたら、信号待ちしている友人を見付けたんですが、友人にも透明人間は見えていなかったみたいで、友人はそのまま透明人間の体をすり抜けて行ったんです……」  少しの沈黙の後、Tさんは浮かない表情で続けた。 「それから一週間後、その友人は遺書も残さずに自殺しました」  それ以来、Tさんは様々な場所で透明人間を見るようになったと言う。 「コンビニの屋根上、公園の入り口、会社の駐車場とか、どこにでも。以前は雨の日しか見えなかったんですけど、最近は、晴れた日でもぼんやりと見えるようになってきたんです」  透明人間と友人の突然の死に関係性があると思うか質問をすると、Tさんはただ一言、分からないと答えた。  今でも、Tさんの周りでは多くの不審死が起こっているという。
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