第二章〜平和と安全?(カートス)

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5 カールは、小さく溜息をこぼす。 砂の変わり目に沿って、有羽の背を追う。 今にも折れてしまいそうなか細い肩の上、腰まである柔らかな漆黒の髪が風に靡く。 カールは、潮騒とともにまるで兄妹のように並び、じゃれあうように話す有羽とカートスを、愛おしげに見守っていた。 「有羽、気分はどうだ?」 カールは、気になっていたので問うてみた。 有羽、足を止めずに小首を傾げる。 「気分はいいけど、泳げないのが残念かも」 有羽は、振り返ることなく先を歩くカートスと海原へ視線を向けて残念そうに言う。 「それは、まだまだ先の話だ」 「わかっている。ねえ、カール。海ってとても懐かしくっていいよね」 有羽、視線をそのままに小さく可憐に笑う。 やけに大人びた表情、彼女自身最初からいつも憂いを宿した淡い笑みを浮かべてしまう。 ここではない別の場所、その瞼裏に描いているような儚い横顔。 カールは、思わず息を呑むことがしばしばあった。 有羽のことを敏感に察知するたび、自分自身の身体のどこかでギシギシと警鐘をが鳴り響いていること、カールは自覚していた。 自分のすぐ近くに、所有する別荘に滞在することを決めたカールだが、有羽の遊び相手は弟のカートスに任せている。 彼自身、有羽のすぐ近くに出来るだけ行かないようにしていた。 今日は、有羽にとって初めての外出日、カールは一人で部屋にいても落ち着かず、ついつい彼女の様子を見に来ていた。 「……有羽、しっかり休むことに専念しろ。その方が楽だろう?」 「そうね。わかったわ」 水際に立つ有羽は、小さく頷いて言う。 大きく打ち寄せる波に驚くことなく振り返った有羽は、カールを見つめ返す。 信じられないほど長い睫毛を空に向かい上げ、神秘的な黒真珠の瞳に、カールだけを映す。 一呼吸おいて、カールが口を開いた瞬間。 ザバッと、二人は予期せぬ大波に襲われた。 有羽は、その場に尻餅をついてしまう。 カールは、草履が濡れただけだった。
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