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4
カールは、カートスの心情を感じ取り、小さく息を吐き、口を開いた。
「……カートス、四月いっぱい別荘にいるつもりだっただろう? 有羽も一緒にゆっくり休養することを専念しよう。いいだろう? カートス」
「構わないよ」
「僕は、ヴァカンスであっても、大学のレポートや会社の書類を見なければいけない。カートスもレポートがあるとは思うけど、僕より時間はあるだろう? 有羽を無理させない程度に遊んでやれ」
カールは、ベッドから背を向けて、ドアの横にいるカートスの隣に行き、彼の背中を叩く。
「わ、わかったよ」
「有羽、食事の準備が終わるまで、もう少しゆっくりと寝ていろ。いいな?」
有羽は、兄弟のやり取りを微笑ましげに見ていて、カートスと同じく幼いわりには、彼よりも大人びた表情を滲ませてしまう。
カールは、有羽を労わるように視線を送る。
「……カール、いろいろありがとう」
有羽は、カールの痛ましげな眼差しに気づいたのか、一瞬瞠目したが、すぐさま小さく頷くと嬉しそうに可憐に笑う。
とても可愛らしい微笑みだった。
今にも消えそうなくらい儚げな少女が映る二人の兄弟の瞳は、不安そうに曇っていた。
カールは、レポートを書き終わったそのあと、別荘のリビングのテラスから直接外へ出ることが出来る真っ白な砂浜へ来ていた。
鍛え抜かれた小山のような大きな両肩、その上の太い首を傾げる。
カールは、波打ち際で遊んでいる有羽とカートスを眺めている。
有羽の熱は、ほとんど下がっていた。
ニ日後には、家で寝ていても退屈だとぼやく彼女をカートスが砂浜へ連れ出していた。
カートスは、短パンとTシャツ姿だったが、有羽は浴衣を着ている。
カールは、女性は経験上好きではないが生活上社交界慣れしている。
誰かを喜ばせることは、カールの仕事の一環であり簡単なことだった。
カールは、有羽を出来るだけ近くに置いて見守っていたいと強く感じたので、彼女の好みに合わせて日常品をすぐさま揃えた。
その後、有羽に似合いそうな浴衣も用意してあげた。
有羽は、バスローブやパジャマは別としても、準備した服から出来るだけ真っ黒な服を選んで着る。
カールが有羽に好きな色を問うた時も黒だった。
有羽が次に好きな色は白だが、意図的であることに、カールは彼女の憂いに満ちた瞳から気づいていた。
有羽は、下駄を脱ぎ捨てて黒椿の咲き乱れる浴衣の裾を摘み上げている。
寄せては返す水際を、カートスと楽しげに歩いていた。
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