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8
「……有羽、ごめん。僕にとって忙しない兄さんと違って毎日以外平凡すぎて、平和ボケしすぎているのかもしれない」
カートスは、カールのように有羽の言葉を自分なりに深く呑み込んだのか、ぽつりと謝ってきた。
「謝る必要なんて、何もないわ。カートスって、些細なことでムキになって嫉妬とかもするから可愛くて。それでいてすごく優しいから、私は大好きよ」
「ゆ、有羽……」
「だからね、下手な邪念になんて惑わされないで欲しいのよ。カールはカール。カートスはカートス。きっとそれは変わらない。自分だけの道がある。そうでしょう?」
カートスは、有羽に慈愛溢れる大人びた表情で言われて、潤んだ目を瞬かせて顔を赤らめる。
カールは、儚げな有羽の姿に思わず見惚れていた。
彼女のカートスへの想いに、自分の心の真ん中が何だか妙に軋むのを感じている。
「……そうだね。僕、頑張るよ」
「そうして」
「有羽は濡れているから風邪ひいちゃう。兄さん、お腹すいてきたし部屋へ戻ろう」
カートスは、有羽から視線を逸らしてカールを見て言ってきた。
「ああ。戻ろう」
カールは、大きく頷き大股で歩き出した。
あともう少しで、十二歳の誕生日を迎えるーー。
だからこそカールやカートスに強請って、外に出てみたけど。
美門家の乙女は、生年から三年越しの年齢は特別だった。
彼女自身、不安と緊張感で眠れない夜を過ごしている。
有羽は、一階にある自室のテラスに出て、ガーデンチェアには座らずにウッドデッキの隅に座る。
ちょうどいい段差に、有羽は気持よさげに足をふらつかせた。
有羽の足元に広がる砂浜は、天井に輝く付きに照らされて銀色に輝いている。
もうすぐ満月、自分が追われている美門家の影響が高いのは朔月。
それがせめての救いであるかもしれない。
彼女自身、物憂げにそう考えていた。
有羽は、月から視線を逸らして海原を見た。
どこまでも広がる海面は、長い月影を照らし出している。
神秘的な煌めきに満ち溢れていた。
太陽が燦々と輝く昼間とは違う。
外は外灯の灯りだけ。
ほぼ真っ暗に近くて肌寒い。
その冷たさは、自分の身を引き締めてくれる。
明日の誕生日、何事もないように切実に願う自分自身の心にさす憂いが、余計に震わせてしまう。
彼女自身、それも必要のことくらいはわかってはいた。
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