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4
「ねえ、あなたは悪い人に見えないのに、なぜこんなことをするの?」
有羽は、誘拐犯にしては誠実そうに見える彼自身の口から一体これはどういう事情なのか、詳しく説明して欲しいと願っていた。
「俺としては、幼子を巻き込むつもりはなかった。だが俺へ囁きかけるものの悲痛な想いを早めに対処したいと願い動いた」
有羽は、彼から視線を逸らすとぐるりと周囲を見渡した。
「……もしかして、この場に彷徨う精魂のため?」
いまだにきこえている咽び泣く声を再度確認した有羽は、一呼吸置き彼に問うた。
「きこえているのかい? 度胸の良さといい、不意に成長したことといい、黒真珠の瞳といい、やはり特別な娘のようだね」
彼は、余裕ありげな表情から剣呑とした色を滲ませ有羽の様子を窺っている。
「特別って、どういう意味?」
「知らないのかい? 今いる地上界には、浸透していないことかもしれないね」
「もしかして、私が考えつく巫女体質以外にも意味があるってこと?」
有羽は、彼の意が知りたく問うてみた。
「ある。誰にでもある血だが、黒真珠の瞳や成熟するまでの限定だが四年ごと成長期があるものは、はじまりの神々の血が顕著にあらわれている証拠。清純な精魂であり、邪気にも穢されにくく魔術の威力も強いとされている。それを考えると、幼子には酷だが魔術の呪縛も必要なのかもしれない」
「ま、待って! 私は魔術なんて使えないわ。疑われる私自身何があっても構わないけど、カートスに影響出るようなことは一切しないで。あなたは、幼気な幼子を巻き込まない信念なのでしょう?」
有羽は、彼が動き出す前に、慌てて口を挟む。
「確かに、君からは魔術を感じられないが」
彼は、不意に言葉を切ると有羽から視線を逸らす。
「カートス、目覚めたのね?」
有羽は、首を捻り背後で横たわるカートスへ視線を向ける。
カートスも後手に拘束されているため、動き一つままならない。
「ゆ、有羽?」
有羽と同じく拘束されているカートスが、窮屈そうに声がする方向へ身じろぐ。
カートスは、有羽の背にぶつかりそうになるが、彼女はどうにか身を捩らせ距離を置いた。
「な、何? 動けないし、一体……?」
カートスは、自分の隣にいるのが自分より少し成長した後ろ向きの有羽に気づいたのか、瞠目していた。
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