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7
「カートス、アスナーが言っていることは嘘じゃない。ここは海が遠いというのに潮の香りがするし、僅かに潮騒だって感じられる。それにね、私は異世界に所属する妖精を知っているもの」
「妖精……?」
視線を向けてきた有羽の言葉に、カートスは目を瞬かせている。
「そうよ。すべて嘘じゃない。私が成長していることって、不可思議な証拠なわけでしょう?」
「そうだけど……、で、でも……」
カートスは、凛とした有羽の意志の強い瞳に気圧されたのか、しどろもどろになる。
「ともかく、カールがここへ来るってことね。アスナーは彼に協力して欲しいってこと?」
有羽は、カートスからアスナーへ視線を向けた。
「協力? それは彼次第だね。俺としては早く決着をつけたいから、手段を選ぶつもりはない。咽び泣く声が煩くて困るのでね」
「でも耳を塞げない。やっぱりアスナーは、優しいね」
有羽は、苦渋の表情を刻むアスナーへ小さく可憐に笑いかけた。
「俺は、少年が言うように、優しくなんかない。自分の血族だからこそ放っておくわけにはいかないだけだ」
「放っておけないわけでしょう? あなたのように力があれば、きこえないくらい出来るはずでは? 私はね、自分の血族であっても無惨に嘲笑う輩を大勢知っている。だからこそ幼子を巻き込みたくないって言ってくれるアスナーの名前をきいてみたかったの」
有羽は、自分の勘やアスナーの瞳にある高邁な光を信じていた。
アスナーは、思わず怯みそうになるくらい威圧的でも自分の知っている残酷非道の連中と違うのだと。
「まったく……。俺は、果ての塔の長候補が来てないか、見てくる」
「カールは、果ての塔っていう組織の長候補ってことなの?」
「そうだよ。俺はもう行く」
「アスナー、待って。私の中で他にも気になることがあるの。教えて欲しいけどいい?」
有羽から視線を逸らそうとしたアスナーに、彼女は慌てて呼び止めた。
「何?」
「アスナーって、異世界の人でしょう? 今いる地上界は危険で過酷ってきくのに、どうして人魚姫とか降臨してしまうの? あなたの知っている最大の理由って何?」
有羽は、気になることが多々あった。
この際あらゆることに事情通ぽいアスナーに、きけるだけきいておこうと考え、有羽は神妙な声音で問うてみた。
「最大の理由は、穢れだろうね。どんな理由であっても濃すぎる穢れに触れすぎると、わずかな空間の歪みなどにはまりやすいみたいだよ」
「ほとんどが穢れのせいってこと?」
「そうだよ。誰にでも持っている邪念も一つだけど、各世界中に渦巻く悪の根源とされる穢れと混ざりあい、膨張しすぎることがある。それに応じて甚大な被害が生じる可能性があり、最小限に食い止める組織の一つに果ての塔がある。だがそれを大義名分として、生きているものを道具として使うことが多い」
「道具……」
有羽は、苦汁を刻むアスナーの言葉の意は理解出来ていた。
彼女の経験上、その単語に並みならぬ恐怖を感じていて、思わず呻くように繰り返している。
「わずかな犠牲で済むと説いているが、残虐性は隠し切れない。命を失うことがない他の方法がたとえあっても、自分たちの考えに囚われていることが果ての塔は多すぎる。だからこそ自分たちの罪を贖って欲しい」
アスナーは、仄暗い光を瞳に宿して言うと、くるりと背を向けた。
毛深い絨毯の上に横たわる有羽とカートスに背を向け、彼は出入り口に歩き出す。
「アスナー、贖うって……」
「有羽、もうダメだよ。あとは兄さんに任せよう!」
有羽の言葉を遮り、カートスは震える声音で口を挟んできた。
「少年の言う通りだな。何度も言っているようだが、俺は幼子を巻き込む趣味はないから安心して。だからこそ今いる場所から動くなよ」
アスナーは、振り向かなかったが、手厳しく忠告すると、扉から外へ足早に出て行った。
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