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「……有羽って、危なすぎるよ! あんな怪しい男と、平気で会話するなんて」
アスナーが去り、押し黙る有羽の背に、カートスは怒鳴りつけた。
「だって、ききたいこと山ほどあって」
有羽は、そう言い、大きく身体を反転させてカートスへ向き直る。
「!?」
カートスは、大人っぽく艶が出た有羽の姿を目前とし、思わず生唾を呑み込む。
「カートス?」
有羽は、唖然としているカートスをじっと見つめ可愛らしく小首を傾げている。
人の気持ち知らないで。
カートスは、内心毒づき自分を落ち着かせながら有羽を睨んだ。
「有羽、無茶はするなよ。兄さんは来る。そうだろう?」
「そうね。カールは必ず来るわ。弟のカートスのためにね」
有羽は、小さく頷いた。
カートスは、誰構わず魅縛するくせに、男心をまったくもって鈍感な有羽のことをあらためて気づいた。
呆れるやら、虚しくなるやら。
彼自身、複雑な心境だった。
「そうだよ。僕よりも頼れる兄さんは来る」
カートスは、自分の言葉に嫌気さしながら言うと、有羽が目を吊り上げてきた。
「カートス、自分を卑下するのはやめてって言ったじゃない! 私がカートスを一番に頼りにしていること、わかってないわけ?」
「は?」
予想外な有羽の言葉に、カートスは目を丸くする。
「だから、私は健全なカートスがそばにいてくれるから、自我を保てているの。もし一人だったら、嘆きの声に負けて狂乱状態になり、泣きそうだしね。元気なカートスの声がきこえるから、私は頑張れるのよ」
有羽は、掠れた声で言いカートスの顔を覗き込んでくる。
魅惑的な黒真珠の瞳がまっすぐに、カートスを映し込み、彼のすべてを求めるように潤んでいる。
「ゆ、有羽……」
どうにか声を絞り出したカートスの身体は、十一歳と幼いながら熱く火照る。
カートスは、目の前の有羽に惹き込まれていくのを覚えていた。
「カートスは、カートスのままでいて。地上界のありふれた常識の中で、健全な心のままで。自分のなかの邪念になんて、負けてはダメよ」
有羽は、小さく可憐に微笑む。
「……有羽、わかったよ」
大きく頷くカートスは、どうしても有羽に魅縛されてしまう自分に戸惑っている。
切実に訴えてくる有羽の願い。
どうあれ自分自身の心に、しっかりと刻みつけていようと、カートスは強く誓っていた。
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