第三章〜廃れた倉庫(アスナー)

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8 「……有羽って、危なすぎるよ! あんな怪しい男と、平気で会話するなんて」 アスナーが去り、押し黙る有羽の背に、カートスは怒鳴りつけた。 「だって、ききたいこと山ほどあって」 有羽は、そう言い、大きく身体を反転させてカートスへ向き直る。 「!?」 カートスは、大人っぽく艶が出た有羽の姿を目前とし、思わず生唾を呑み込む。 「カートス?」 有羽は、唖然としているカートスをじっと見つめ可愛らしく小首を傾げている。 人の気持ち知らないで。 カートスは、内心毒づき自分を落ち着かせながら有羽を睨んだ。 「有羽、無茶はするなよ。兄さんは来る。そうだろう?」 「そうね。カールは必ず来るわ。弟のカートスのためにね」 有羽は、小さく頷いた。 カートスは、誰構わず魅縛するくせに、男心をまったくもって鈍感な有羽のことをあらためて気づいた。 呆れるやら、虚しくなるやら。 彼自身、複雑な心境だった。 「そうだよ。僕よりも頼れる兄さんは来る」 カートスは、自分の言葉に嫌気さしながら言うと、有羽が目を吊り上げてきた。 「カートス、自分を卑下するのはやめてって言ったじゃない! 私がカートスを一番に頼りにしていること、わかってないわけ?」 「は?」 予想外な有羽の言葉に、カートスは目を丸くする。 「だから、私は健全なカートスがそばにいてくれるから、自我を保てているの。もし一人だったら、嘆きの声に負けて狂乱状態になり、泣きそうだしね。元気なカートスの声がきこえるから、私は頑張れるのよ」 有羽は、掠れた声で言いカートスの顔を覗き込んでくる。 魅惑的な黒真珠の瞳がまっすぐに、カートスを映し込み、彼のすべてを求めるように潤んでいる。 「ゆ、有羽……」 どうにか声を絞り出したカートスの身体は、十一歳と幼いながら熱く火照る。 カートスは、目の前の有羽に惹き込まれていくのを覚えていた。 「カートスは、カートスのままでいて。地上界のありふれた常識の中で、健全な心のままで。自分のなかの邪念になんて、負けてはダメよ」 有羽は、小さく可憐に微笑む。 「……有羽、わかったよ」 大きく頷くカートスは、どうしても有羽に魅縛されてしまう自分に戸惑っている。 切実に訴えてくる有羽の願い。 どうあれ自分自身の心に、しっかりと刻みつけていようと、カートスは強く誓っていた。
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