幼少期の卵

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 私は、はじめて男の子とつき合った。彼は陽気で気さくで、本当にいい人だった。でも、彼の告白を受け容れはしたものの、彼に恋はしなかった。嫌いではないから付き合っているだけで、どきどきしたり焦がれたりする気持ちはなかった。  彼に家に誘われたときは本当に驚いたし、怖かった。母子家庭の彼の母が、職場の付き合いで一泊の旅行に行くそうだ。  彼は正直に横を向いて「うちに来ない」と照れくさそうに言う。  私にだって意味は分かる。  ちらほらと、そういうことになった人たちの噂話も聞いたことがある。  でも、彼の誘いを聞いて情けないことに私は心底驚いてしまった。  断ろう。そこまであなたが好きなわけでない。いや、実はそういう意味の「好き」の気持ちはない。 「私……」  言いかけたとき、私の脳裏にあのめらめらとした夕陽の絵が鮮やかに浮かんだ。そこには、生まれることのできなかった人間の芽たちがひとかたまりで胎児を象っている。 「行くよ」  何かに無理やり背中を押されたように、私は答えてしまっていた。
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