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第五話「先輩の今好きな子と元カノ」
タケオは意外にもすんなり退散する気配だ。
「ゲーセンあたりに澤藤がいるらしいぞ」
「聞きました」
「おやすみ」
「あの‥麻衣さんに謝っておいてください」
タケオはすっかりしょげて帰って行った。
その背を見送り康博がドアを閉めると、隠れていたバスルームからホッとした表情の麻衣が出てきた。
「とりあえず、一件落着」
「さすが先輩!」
「でも、あいつ俺たちのこと、いろいろ言いふらしそうだな」
「先輩とならいいけどね」
「俺の方はいろいろと困るわけよ」
「愛ちゃんに誤解されたり?」
「あの子にはもう半年も費やしてるんだから、ここで潰れたらアホだぜ」
「ミツエちゃんとかね」
「あいつはどうでもいいけど‥ミツエと別れた理由が麻衣ってことになると、ツジツマ合わなくなるなぁ」
「それはちょっと面倒かも」
「そーなのよ」
愛というのは、康博が狙っている新入部員の1年生で、これが大変妙な女だった。サークル内でも人気のある所謂かわい子ちゃんだが、女子校育ちのためか全く男子に興味が無い‥いや、無いように見える。そのくせ、ふとした仕草や言葉が無性に男を刺激する‥つまり、男子にとっても女子にとってもちょっと厄介な子なのだ。その難攻不落な感じに、康博は惹かれている。
一方のミツエは、昭和の生き残りのような古風な女で、男に尽くしては泣かされている。有り体に言えば良い子だが、一度好きになると他が全く見えなくなり、自分と同じかそれ以上の愛を相手に要求し、それが当たり前だと思っている。その窮屈さに耐えかね、康博はミツエと別れたのだった。
さて、すったもんだしている間に時刻は12時半。
トゥルルル トゥルルル
悪夢のように、再び麻衣のスマホが鳴り出した。
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