第六話「第三の男」

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第六話「第三の男」

スマホの表示を見ると、登録のない番号‥ 首を傾げながら、麻衣は電話に出た。 「もしもし」 「麻衣?俺」 「誰?」 「杉本」 「あー、杉本君」 杉本は、麻衣と学科もサークルも同じだが、いわゆる幽霊部員で、あまり部室には顔を出さない。部長である康博でさえ、会話したのは学園祭の時くらいだ。 「どうしたの?」 「いや、ちょっと麻衣の声が聞きたくなって」 「なにそれ?あんたも明日試験でしょ?」 「まあね。そうだ、一緒に勉強しない?」 「ダメ、今友達とやってるから」 「そうか。で、彼は今日泊まり?」 「彼って、どーして男なのよ」 「いや、ちょっとカマかけてみただけ」 「やな感じ。どうしてみんなそうなのかな」 「何だよ、みんなって」 「ううん、別に」 「しょーがねーなぁ。じゃあ、今度いつ空いてる?」 「えっ?何で」 「いいから、いつだったら会える?」 「来週の水曜日なら‥って言うか。杉本君、私に何の用?」 「うーん、俺が麻衣の人生を変えるかもね」 「なにそれ?」 「会った時に話すよ」 「‥わかった」 「じゃあ、水曜日に」 「うん、おやすみ」 麻衣はスマホを切り、康博に「珍しい、杉本君」と告げた。 「あいつまで、お前の周りをウロついているのか?」 「私だって、好きでこうなってるわけじゃないんですから」 「そうかなぁ。麻衣の態度の曖昧さが、あっちこっちで災いの種を蒔いているような気がするけどね」 「じゃあ、私が悪いの?」 「まぁ、そうムキにならんで。でも、お前の注意が足りないから、こういう電話がかかってくるんじゃないのか?」 「そうかもしれないけど‥」 「だろ。今だって、杉本と約束をするような言い回しをしちゃってるし」 「そう言えば、杉本君の用事って何なのかな?」 「どういう風に言ってた?」 「なんか、私の人生を変えるかも、とか何とか‥」 「なんだ?その大げさな台詞」 「意味わかんないですよね」 「こりゃ来週の水曜日は見ものだな。また一悶着あるんじゃないのか。タケオのように」 「まさかぁ。杉本君とタケオ君では、精神年齢が5歳くらい違うもん」 「そうだといいけど。まあ、モテてる間にいい男見つけておいた方がいいよ」 「でも、なかなかいい男っていないしね」 「麻衣じゃあ、そうかもな」 「何で?」 「接し方とか利用法とかによって、いい男もそうでなくなったりするからね」 「私に何が足りないの?」 「我慢かな」 「それは男の方だって、そうでしょ?」 麻衣は”どーだ!”と言わんばかりの口調でそう言うと、煙草を咥えた。 康博は苦笑しながら、マーキングを終えたコピーを麻衣に渡した。 「えっ?すごい!いつの間に終わったの?」 「俺は片手間でも全力投球するんだよ」 「さすがです。私もそろそろ、本気で試験勉強やらないと‥」 麻衣がそう言って、煙草に火をつけようとした時だった。 ピピピピ ピピピピ 今度は康博の携帯が鳴り始めた。 時刻は1時をかなりまわっている。
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